143話 そのまま帰るところでしたが。
サマンサを引きずり運ぼうとしたところで、管理官の男に呼び止められた。
「途中でほかの班やリザードは見かけなかったか? 君たちのほかに7組、合計34人が入ったはずなんだが、5組、23人の帰還が確認できていないんだ」
「トカゲを探しているとか、あるいは深い場所にまで潜ったとかじゃないんですか? 俺達もそんなに長い時間潜っていたわけではないと思うんですが」
「ああいや、見かけていないならそれでいいんだが……今回の依頼は、坑道として利用する場所に鉱石トカゲが出てきたから退治、という話だから、半分のパーティが上がってくるまでに夕方前、というのは少し遅いと思ってな。坑道管理組合の方から確認を……と、心当たりでも?」
「ああいえ、ちょっと考え事を。質問いいですか?」
俺は衛兵……管理官に問いかける。管理官は二つ返事で了承してくれた。
「この坑道と、外の街道の方で被害が出たっていう話でしたけれども、こっちではどんな被害が出たんですか?」
「それなら、連絡が行っていたと思うが……合計37人の採掘員が、メタルリザードに遭遇、死傷。複数個所で遭遇したため大量発生の可能性あり。回収された遺体の一部は噛み切られていたり、あるいは石弾で潰されて、蘇生がほぼ不可能である……と。聞いていなかったか?」
「ああいえ、人数や傷の話は聞いていなかったですが。おおよそは聞いていた通りですね」
何だろう、この違和感は。
「リーダー、あたし達が戦闘中、あいつら、一度でも噛みついてきたか?」
「いや、一度も。牙や噛みつきの攻撃はしてこなくて、爪や尻尾、それから体当たりや石弾……噛みつかれなかったな」
「私もそう記憶してる。んで、メタルリザード達は鉱石を食う。サマンサ、こいつらが鉱石以外を食うことはあり得るか?」
「たぶん、無いはず。ああ、そういうことね」
そこまで言われて俺もようやく察した。亜種か変種か、あるいは外見の似ているだけの別種かは分からないが、人の肉を食らうようなトカゲが混ざっている。
「どうする? 私たちの仕事はメタルリザードの退治な訳だけれども」
「行くっきゃないだろ。報酬が足りないと思ったから再度潜った結果遭遇した、そういうことでいいだろう」
まあ、ほかの冒険者たちが倒してくれているのが一番いいのだけれども。