123話 試食会のような。
遅くなりました。
樹液を煮詰めた結果、サワークリームだとか塗るチーズとか、そのくらいの粘度と柔らかさに落ち着いた。採取時点での重量を感じる粘つきはもうないようだ。色も黄金色に透き通っていて、申し分ないだろう。この粘度でシロップと言えるかは疑問だが、鑑定結果ではそうなったので仕方がない。
食用粘土の方は食用レンガへと姿を変えた。硬さは本当にビスケットくらい…大きさ的にはスコーンの方が適切であろうか。黒というかグレー色の見た目は解消されなかった。粘土はどこまでいっても粘土、ということだろうか。
適当に皿に盛りあわせて準備完了。シロップはそれぞれが使えるように別の皿に分ける。シルバーは直接食いつきそうだったのも理由だ。
さて、試食会。
「これは……」
「悪くない、というか良いと思うけど……」
粘土がレンガになったところで味が変わることを期待していたのは馬鹿だった。
とはいえ、そのあたりを考えても有利に思えるくらいにはシロップは良いものだった。
甘さの中に僅かばかりの酸味があり、食欲を煽りたてる。糖蜜の香りがなかなかいい。
全員の総評としては、食用レンガでなくパンとかだったらもっと良いものになっただろう、と落ち着いた。
一応出したレンガは食べた。土臭さは無くなったけれども、砂の様な感覚……いや、砂を積極的に食べたことはないが。せいぜい子供の頃に投げつけあったものが口に入ったくらいだ。
「このシロップ……シロップ? 売れないかな」
「あー、今回の食糧難ではこういうのがあった方がいいかもねぇ。みんなはどう思う?」
「私は賛成だ。たまにこういうのが欲しくなるのはわかると思う」
「私は棄権で。保留とも言いましょうか」
「んー、じゃあ……俺たちのぶんをある程度残しておいて、それから分量を決めて卸そう」
自分達の欲しい量を確保しても、売却に困らないだけはある、と思う。燃料としても使えるらしいし、煮詰めずに売っても良いだろう。
キャラメルあたりを作れたりしないだろうか、と考えながら樹液の仕分けをして……大きめの壺を購入、それに詰めて樹液とシロップを売却することに。
甘いものでテンションが上がっていたのか、いくらで買取をしてもらったか記憶に残っていなかった。サマンサが興奮していたのは覚えているが。
……壺ごと売ってしまったのに気がついたのは、帰宅してからだった。
こういうウッカリを無くさないと大変そうだ。