122話 蜂の面倒でも見ようかと思ったところでしたが。
養蜂でもやっていればハチノコや蜂蜜が手に入って、元手をあまりかけずに食料になるのでは? と思い立ち、今日は依頼の前に蜂の様子を見ておこう、と考えていたが。
エント達の一体が、木の桶を持って行ってしまったので、蜂蜜を回収するのはその作業が終わってから、という感じになりそうだった。ちなみにその桶は間引いたエントから作られたものである。
ハチノコは平皿の方に回収……しようとしたが、蜂の方は間引くなら前以て教えてくれ、と言わんばかりに抗議の構えを取ってきた。まあ、普段は蜜とか採取品、そっちの方しか確かめてなかった訳だし、不手際であるか。
エント達の方はというと、お互いの身体に手のかわりに使っている枝を軽く突きだし、樹液を零していた。……手伝ってやったほうが良いか。零す場所を確認し、桶で受け止めてやる。結構流れてくるな。鑑定結果は……と。
エントの樹液。甘味系の調味料になる。粘度がかなり高く、燃料として使うと超効率。
なんで燃料? いや、それは良いか。俺の知識にある、つまりスーパーとかで買っていた蜂蜜よりも粘度が高そうだ。どんなものか少しくらい舐めても罰は当たらないだろう。ただそれをほかの皆に気付かれないように……
「あら、なんだかおもしろそうなものが取れたのね? 蜂蜜?」
「じゃないみたいだよ。樹液だってさ」
「ふうん、ようやく念願の甘いものか。まさか、我慢できず一人でイくつもりだったか?」
「なんでいるんだって顔してますねぇ兄さん」
シルバーがこっちを見ている。お前が起こしたのか。
まあいいか、これだけあれば無くなることもあるまい。
「そういえば、なんで燃料として超効率なのか分かるか?」
樹液を煮詰めてシロップにでもしようか、という話になったので鍋と向き合いながら聞く。
「エントロピーと掛けたジョークなんじゃないですかね」
メモリの作業は携帯粘土を……じゃない、食用粘土を焼いて食用レンガにすることだ。硬度的にはビスケット程度で、今からの試みには悪くないだろう。このあたりもよくわからない。
「樹液はサップじゃ……?」
「樹液の英単語を覚えていたのは褒めてあげますけど、そっちじゃないです。ropy、粘着質な、とか粘つき、とか。EntのRopy sapでエントロピーサップ。単語としての発音だと微妙に変わったりするけども」
「ああ、あの人ならそんな感じのギャグとか好きそうだよなぁ……」
小さくぼやきながら、鍋の中身を撹拌して過ごした。