98話 少し過激に致しましょう
買う理由が無いのなら、理由を仕立て上げてやれば良いのだ。冒険者が所謂下請けだからといって蔑ろにして良い理由はない。
俺たちはシーナがシルバーを連れていったのを確認したので、コトが起こるまでの間、相手側のなるべく多い人員をここに留めておく必要がある。
「冒険者だからカツアゲしてやろうっていうのか? 随分と立派な企業なんだな」
「この街で造船業というのがどのくらい重要か分かっているのか?」
「知らんよ。ただ、根無し草には街の権力なんてあってない様なモンだろ」
それに、というか。この造船所だけ橋の上にないんだよな。前調べをしていなかった俺達の落ち度といえばそうなのだが。
「お前達が乗っているというだけでその船がこの街を通れなくなるんだぞ?」
「それは脅迫でいいのか? 私達が船を利用しなくなる理由にはなっても、物品をタダで引渡す理由にはならんだろう」
正直言うとビビってる。ただ、それを打ち消すくらいの勢いでエリナが啖呵を切っているので、少しばかり冷静に見れる、と言う感じか。
向こうの用心棒らしき人が8人いる。スキルは確認出来ないが、レベルは850から1200まで、疎らではあるものの全体的に俺達よりも高い。車で撥ねたりしない限りは、かなりの被害を受けるだろう、と思う。
ただ、用心棒も喧嘩早くはない様で、牽制の様に武器に手をかけてはいるものの、抜いたり構えたりはないようだ。こちらが手出ししたらすぐに動くといった感じだろうか。
向こうだって無用の怪我を負うつもりはないだろう。俺達に構っているような暇が無くなれば、この場は引いてくれる筈だ。
「なんとか言ったらどうなんだ、あぁ?」
「俺達は何度も言ってるだろう、全部買い取れ、と。数量を書いていないのはそちらが悪いし、そもそも倉庫に余裕がないから、と言っていたのに、こっちが邪魔になると言ったらタダで引き取ってやるだとか。言っている事がめちゃくちゃじゃないか」
この先は不毛な言い争いになりそうだ。
正直言うと、買って貰えなくても嫌がらせできれば良いと思い始めてきた。
「だいたいだな、こっちが雇ってやっているのにどいつも」
その発言は俺たちの耳には最後まで届かなかった。
造船所と倉庫の方から、崩れるような大きな音が響いて来たからだ。
「報告です。倉庫から木達が逃げ出しました。その後造船中の船への破壊工作を行った様で」
「見張りは何をやっていた!」
「こっちに全員呼び出したのはオッサンでしょう」
用心棒の冒険者達が告げる。……アイコンタクト取られても分かんないから。
「ええい、お前達の差金か!」
「いやいや、決めつけはよくないですよ。第一どうやって?」
いやまあ差金ではあるけれども、方法を知らないのは確かだ。
「あらぬ罪を着せられ物も奪われそうなので、私達は退散しますね?」
「じゃあ僕らは従業員の避難でも手伝いますか」
「ま、待てっ、お前達っ……」
シーナとシルバーはいつのまにか車に戻っていた。
あのオッさんが何か仕掛けて来る前に退散しよう。