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ゆっくりと近づいてくる音とその赤い物体が

一体何なのかを見極めようと構えていると、

草をかき分けてその正体が現れる。





おぉ・・・。


スライムだ。



目の前に現れたのはリンゴの様な果物を頭にのせた、

ファンタジー界の大御所スライムさんである。


いろんな形状はあるだろうが、目、鼻、口の

ついていない楕円形のスライムだ。


ただ、今はそんなスライムよりも重要なものに

意識が吸い寄せられてしまう。



・・・リンゴだ。



この世界の果物でそれに相当するものがあるのかは

わからないが、それが近いであろう果物が

あのスライムの頭の上にのっかっている。


こんなファンタジーな世界なだけに

私の知っているリンゴかどうかはわからない。


だが、昨日から何も食べていない私にとって

土、草より食べれそうな物であれば

もうなんでもかまわない。


押さえつけていた食欲が私の理性を打ち砕き、

私を暴挙へと駆り立てる。



っへっへっへ。


上手そうなもん持ってるじゃないか。



私と遭遇してから動きを止めたスライム。


そんなスライムを逃がすまいと

ゆっくりと距離を詰めてゆく私。


正直私と同程度の大きさゆえに空腹の私が

力勝負で優位にたてるかはわからない。


だが、そんな事は些細なものである。


今の私にはこの甲殻に覆われたハサミが付いている。


これは明確なアドバンテージ。


対人戦であれば素手の相手に対してナイフを

二本も持っているに等しい。


カチカチとハサミの感触を確かめつつ。



さぁ、痛い目を見たくなかったら

お前の頭の上の果物をよこすんだ。



正直喋れないので伝わっているのかわからない。


出来るだけそれっぽい動きはしているが、

相変わらずスライムは動こうとはしない。



じわりじわりと縮まってゆく距離が

私の間合いに達したその時。



そこだ!!!



全身全霊の右ハサミの突きをリンゴ目がけて放つ。


この体になって間もないが、私の想像どおりの

いや、想像以上の動きで私のハサミが動いてゆく。



これがモンスターの力か。



ハサミに突き刺さる果物の感触を確信した私。






だが、私のハサミは予想に反して空を切る。



何!?



まるでそこに実体がなかったかのようにハサミが

目標の延長線上へと流れ、それにつられるように

私の体が地面へと滑り込む。



ば、バカな。


確かに仕留めたはず。



にぎにぎするハサミの先端には何もなく、

私のハサミに突き刺さっているべき果物は

依然スライムの頭上にのっている。



このスライム・・・・・・出来る!!!



相手の力量に驚きつつもすぐさま体制を立て直し、

改めてスライムと対峙する。



出来れば傷つけたくはなかったが、

背に腹は代えられない。



恐らく既に両者の攻撃範囲。


そして、相手の手の内がわからない以上

もう余裕は存在しない。


一息で体制を整え、今度はスライム本体へ

鋭い突きを放つ。


だが、この攻撃もスライムは自分の形状を変え

軽々と回避する。


これに焦った私。


さらに一歩踏み込み自重を乗せた一撃を

繰り出そうとしたその瞬間。




っふぁ!?




突如としてスライムから飛び出た触手が

私のハサミの付け根を押さえ、

私を投げ飛ばすと同時にそのまま関節をきめた

抑え込みをしてきた。



完全に身動きを取れずに地面に組伏された私。



痛い、痛い!痛い!!!ってか怖い!!!



体当たりぐらいの攻撃しか予想していなかった私に

触手とまさかの関節抑え込み決めるスライム。


そしてそんな知的なスライムが私を抑え込んだ状態で

またもや動作を停止した。


想定外の痛みと恐怖でパニクる私。



ごめんなさい。


出来心だったんです!


お腹が空いていたんです!!!


ごめんなさい!!!



ガチな心情を吐露しながら一心にスライムに

命乞いをする私。



「な?」



するとどうだろうか。


スライムが何と言葉を発した。


聞き間違えかと思いきょとんとする私に。



「なな?」



やはりこのスライムが発している。



え?スライムって鳴くの?



よくわからないスライムの生態にビビりながらも

改めスライムに詫びを入れると。


意外にもすぐに拘束を解いてくれた。



「な!なーなーな!」



はい、すみませんでした。



何を言っているかはわからないが

『お前こんなことしたらダメだろう』

的なことを言っている雰囲気がある。



改めて体制を立て直すと頭?を下げて謝る。



「な!な!」



そう鳴いて飛び跳ねるスライム。


どうやら許してもらえそうだ。



組伏された時は最悪の事態も脳裏をよぎっていたので

ほっと胸をなでおろす私。


どんなにお腹が減っていたとしても

人?のものを奪ったらいかんね。


改心してもう一度スライムに頭を下げ、

一先ずお嬢の下へ帰ろうとすると。



「な!」



そういってスライムに呼び止められる。



え?何ですか?



振り返る私に果物を差し出してくるスライム。



「な。」



え?いいんですか?



私の問いかけに無言でうなづくスライム。



あんたってやつは。あんたって奴は!!!



泣きながらスライムから果物を受け取りかぶりつく。


味もリンゴに似ていたが、

塩気があったのは雰囲気のせいだろう。


勢いに任せて果物を完食すると、

改めてスライムにお礼を言う。



ありがとうスライムさん。


この世界に来て初めてこんな人情のある人に、

いや、人情のあるスライムに出会えた気が・・・。



涙をぬぐう私を触手でぽんぽんと慰めるスライム。



うぅ。ありがとう・・・。


こんなにスライムが優しいなんて・・・。



それにひきかえあの人達ときたら。


あれ絶対に人の形をした悪魔か何かですよ!!!



スライムさんのやさしさに甘えて愚痴り始めたその時。




「あんた。こんなところで何やってんのよ。」


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