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人間は命の危機に瀕すると過去一生分の出来事を

思い出す『走馬灯』という現象があるという。


これが人生審判なのか、脳が助かるためのヒントを

探すための生理現象なのかは私にはわからない。


記憶があったのならばその現象をより確実に

体感できたのかもしれないが、

現在記憶喪失中の私にとっては、

召喚されてから15分ほどの記憶しかない。


わざわざ思い返すまでもない。



短い人生、いやカニ生であった・・・。







悟ってみたものの、諦めなんてつくはずもなく

迫りくる地面が否応なしに私の生存本能を掻き立てる。


くそ!!!


せっかくこんなファンタジー世界にこれたのに

何も出来ないままに死んでたまるか!!!


気合で塔の外壁にしがみつこうとするも

美少女にやられた両手のせいで

勢いが多少落ちた気しかしない。



・・・。



手と外壁にぶつけた体の痛みが

自分の非力さと現実を教えてくれる。



こんな不条理な死に方があっていいのか?


嫌だ。


嫌だ、嫌だ!嫌だ!!!


お願い!誰か・・・!



早くも万策尽きた私。もう後は祈るしかない。


目を閉じて一心に生還を念じた次の瞬間。



「な!!!」



比較的猫の鳴き声に近い音が聞こえたかと思うと、

私の体は塔からの衝撃に弾かれた。


地面に激突したかと思われた体は

激しい回転運動を伴ってその運動エネルギーを

分散させてゆく。


目まぐるしく変わる風景に頭を混乱させながらも

勢いが止まり体が地面に定着したことを感じると。



「なな!!!」



またあの声がする。


声の正体を確認しようとするも、

心身共に緊張の糸が解けたらしく

一瞬にして私の意識は刈り取られていった。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







暖かな光。


ふと気が付くと私は暖炉の傍で横になっていた。


横というのも不思議なものだが、

ヤドカリの体に対して人間の意識がそう感じて

しまっているのだからしょうがない。


おぼろげながら自分の手足の感覚を確かめて

まだ死んでいないことを実感する。



生きてる・・・・・・。


良かった。生きてて良かった。



自然とこぼれてくる涙に

自分でも驚きが隠せない。


ヤドカリって泣けるんだ・・・!



「おぉ、気が付いたか!」



と、私の背後からお爺さんの声がする。



「怪我はないようじゃが大丈夫かの?」



そう問われて再び手足を確認するも

どこにも怪我をした様子はない。


むしろ美少女にやられた

手の傷が治っている事に気が付く。



「無事じゃった事といい、ハサミの傷といい

どうやらおぬしは特別なようじゃの。」



そう言って朗らかに笑うお爺さん。


『特別』と言われて悪い気はしないが、

あまり気乗りがしないのはなんでだろう?


何か心に大きなつかえを感じる。


この不安は・・・。



私が疑問に対して思考を巡らせようとしたその時、

解答の方から姿を現した。



「お爺様。ご飯できましたよ。」



そういってエプロン姿で

つかつかと部屋に入ってくる先ほどの美少女。



「あら?起きたの?」



そういって私を見つめてきた美少女と目が合った瞬間

初めて出会った時は違う感情が体を支配する。


止まらない震えと保身行動。


すぐさまにお爺さんの陰に隠れて状況を確認する。



「っふぉっふぉっふぉ。

どうやらよほど怖かったらしいのう」



そう愉快そうに笑うお爺さん。



いや、いや、いや、当たり前でしょ!?


笑顔で人をあんなところから・・・!


いや今の私は人じゃないのか!!!



でもとにかくヤル気満々の相手が現れて

平然としていられるわけがない。


すぐさま退路を確認し、脱出の準備をする。



どうやら扉はあの美少女の後ろだけ、

他の扉や窓はしまっているため

逃げ道はあそこしかない。


美少女が右から来たらお爺さんを盾に左へ。


美少女が左から来たらお爺さんを盾に右へ。



後は全力で逃げるのみ!



っふっふっふ。

単純明快故に崩しようのないこの計画!!!


さぁ!こいや!


破れるものなら破ってみるがいい!!!



こちらを依然蔑む様に見下す美少女に

両手のハサミを大きく広げて威嚇のポーズをとる。



「はぁ・・・。」



そんな私の雄姿に屈したのか、

美少女の方から私への目線を外す。


どうやら気迫は私の方が勝ったらしい。



一瞬の余韻に浸ろうとしたとき、

美少女は自分が入って来た扉を閉めて

こちらに近づいてくる。



あれ!?扉しめちゃうの!?



凶悪な言動と行動からは思いもよらなかった

普通の入室に動揺する私。


さらには。



「っふぉっふぉっふぉ。」



そういって私の宿殻を背後からつかむと

美少女の前へと差し出すお爺さん。



っく!このお爺さんを使うとは卑怯な・・・!



退路と身動きを封じられ、打つ手を失った私の両手が

再び美少女につままれる。


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