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勢いよく開かれた扉から現れたのは一人の女性。


綺麗な金髪をポニーテールにし、

澄んだ瞳がとても印象的なまさに美少女。


いや、美少女というには多少大人っぽいが。


北欧系の人たちの顔立ちはアジア系と比べると

年上にみられるというからなぁ・・・。



「すまん、すまん。

ちょっと試すだけじゃったんじゃが、

いけそうだったのでついの」



髭をなでながら笑うお爺さんに対し

あきれ顔の女性は次に私を見つめてくる。


こんな美少女から見下されるという

なかなかない状況に若干のときめきを覚えつつも

とりあえず手を振ってみる。



「っち」



あれ?気のせいだろうか?


舌打ちが聞こえた気がする。



「それで『これ』は何なんですか?」



これ!?


初対面の人に対してこれ呼ばわり!?






・・・あ。


今はヤドカリになっているのか。



この女性の登場で横に置かれていた問題を

改めて認識することとなる。


なんでこんな事に・・・。


改めて両手に代わったハサミをにぎにぎしてみるが、

動作に違和感を感じないことに違和感を感じる。



「っほっほっほ。隠しておくつもりじゃったんじゃが

見つかってしまっては仕方がないの。」



お爺さんは私に近寄って両手で持ち上げると

女性の胸の位置で私を前へと突き出す。



「少々早いが、誕生日おめでとうリサ。」



お爺さんの言葉と共にリサと呼ばれた女性の表情が

驚愕に固められた。


無論それは私も同じこと。


お互いを凝視しあうしばしの静寂を破ったのは

リサと呼ばれた美少女からだ。



「ありがとう、お爺様」



そう返答する美少女が私の両手をつまみあげて

お爺さんから私を受け取る。


あわよくばその胸に抱きしめられるのでは!


という淡い期待もあったが、

世の中そう上手くは出来ていない。


ただ、こんな美少女に両手をつままれて

宙吊りにされるという体験もなかなかない。


これはこれでなんとも・・・。


そんな私がウキウキしている中二人の会話は

あらぬ方向へと向かってゆく。



「うむ。喜んでもらえると奮発したかいがあるわい」



そう、嬉しそうに顎髭をなでながら微笑むお爺さんに

対して美少女の放つ気配に嫌なものを感じる。



「お爺様まさか・・・これを召喚するために

いくら使ったんですか!!!」


「・・・そうじゃの」



表情を崩さないまま、そっと二本指をたてる。



「はぁ・・・。こんなダンジョンに行けば

腐るほどいるモンスターを

わざわざ銀貨二枚も使って召喚するなんて。」



残念そう呟く美少女。


プレゼントは金額ではない。


とはよく言われるが、さすがにハートで

埋め合わせできる許容量にも限界があるのだろう。


特に相手は年頃の女の子。


ならばヤドカリよりも欲しい物なんて

いくらでもあることは疑うべくもない。



私のせいではないのだが申し訳なさを感じてしまう。



だが、私の視界に入るお爺さんは

ゆっくりと顔を横に振る。



「・・・金貨!?」



驚きの声と共へ空気が何やら

居心地の悪い物へとかわってゆく。


この世界での貨幣価値は知らないが

間違いなく桁が違ってくるのだろう。


驚きからなのか、怒りからなのか

美少女の手に入った力により

私の手の甲殻が低く嫌な音をたてる。


背中越しに伝えられる私の価値に落胆しながらも

お爺さんの動きに大きな変化はない。



「それがのう・・・。」



何か嫌なためを作るお爺さん。



「まさか・・・じゅ「ニ百なんじゃ。」」





お爺さんのカミングアウトと同時に

私の手の感覚が消え失せる。


恐らくこれが人の体とは構造が違うゆえだろう。


圧倒的な力によって奪われた手の感覚に

泡を吹くことしかできない私。



「な、な、なんでこんなにしちゃうんですか!」



摘まみ上げた私をお爺さんの眼前へ突き出しつつ。


様々な感情の入り混じった声をひねり出す美少女。



「そのまま頂ければ・・・!そのまま!!!」



その気持ちわかる。わかるよー。


だけどまずは手を離しては頂けないのだろうか?


じわじわと伝わってくる鈍痛に耐えながら

事態の顛末を見届けることしか今の私にはできない。



「っふぉっふぉっふぉ。何、そう悲観するでない。

ワシが最高の触媒で最高の力を振るったんじゃぞ?

ただのヤドカリであるはずもない」



自信満々に言うお爺さんではあるが、

私は決して召喚時のあの一言は忘れていない。


だがそんなことを知るはずもなく。


美少女は一理あると思ったのだろう。



「そうね。そうよね。

・・・じゃあ確かめてみましょうか?」



そうつぶやくと突如私をつまみ上げたまま

足で部屋にあった気の板で閉じられた窓をけり破る。


およそ少女の力では開きそうもない重厚な窓が

吹き飛ぶとその先には広い空と雲が現れる。



うわぁー。



いつもより近く感じる雲に対して遥か遠くに

地面を感じる。


木造の室内からは想像できなかったが

どうやらここは塔の上にあるらしい。



「獣人の王族はね?崖から突き落として

這い上がってきた子供だけを育てるそうよ?」



私があたりの景色に気を取られていると、

背後から淡々とした声で

今しちゃいけない小ネタを話始める美少女。



あの!あの!!!


その話は今しなければいけない話なのでしょうか!?



私の問いかけが届くはずもなく、

片手を離され180度回転した私と美少女の目が合う。



「『這い上がって』何てわがままは言わないわ。

そう、生き残ってたら飼ってあげる。」



その残酷なセリフとは裏腹に微笑む美少女。


無慈悲な言動とは裏腹に

その純粋な笑顔に心を奪われてしまう。



・・・はい!



思わずそう返してしまいそうになった次の瞬間

私の手が自由になり、体が重力に絡み取られてゆく。

※高所から物を捨てるのは危ないので真似しないでください

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