8話〜月に笑むは大賢者〜
前回までの話
霊夢と魔理沙は単独行動をし、魔理沙は楽々森彦、霊夢は留玉臣を単独撃破に成功する。
位置的にも目的地に近かった魔理沙はその持ち前の好奇心で霊夢を待たず1人玲紗堂へ足を進める。
そこに霊夢たちを迎えるように外に立っていたのは白を思わせる1人の麗人だった。
その少女はまさに白だ。
私は魔法使いという特性上、相手の魔力の特性をある程度は把握できる、俗に言う「気」
の様なものだが…この少女からは何も感じない、あるのはただの空白、白だ。
何も無いのでは無い、むしろ白という得体の知れない物に恐怖を感じる。
そして何よりもこの少女からは圧倒的なまでの力の差を感じた。
「貴女は確か魔理沙さんでしたっけ?」
そう少女は言うと静かに笑った。
「な、何がおかしい!」
そう言うと彼女はクスッと笑った。
「いえ、貴女は人間ですからね。驚いたんですよ、まさか人間が私に刃を向けるなんて…ね?」
そう言うと彼女は得物を腰から抜いた。
スラリと伸びた美しさを彷彿させる刀身
…日本刀?
「私の名は…彦五十狭芹彦命、その首、晒してあげましょうか!」
そう言うと刀を振りヒュンという異音と共に彼女は走り出した。
「なっ、アイツも派手にやり過ぎよ」
そう呟くとさっき程の光線が過ぎ去った方向を見た。
あの光線は間違いなく魔理沙のものだ。
ここからは距離も遠くはない、そう考えると
走り出した。
彼女が万が一にも負けるとは思ってないが相手がどんな手を打つか心配な点もある。
瞬間、目の前になんの拍子もなく列車が落ちた。
あまりの予想外に一瞬時間が止まったかのような感覚に陥った。
ズトォオンという豪快な音ともに砂埃が舞い
咳き込んだ。
列車!?まさか…?
頭の中に1人の妖怪を思いつき、顔を上げる。
「霊夢…貴女の役目は終わったの、早く帰りなさい」
月を背後に列車の上で偉そうに足をくむあの女は私のよく知る妖怪だった。
「紫…まさかアンタもこの異変に?」
そう言うと彼女は薄笑いを浮かべた。
「さてね、私は単に霊夢、あなたを止めに来ただけよ。」
そう言うと紫は手をつまらなそうにヒュッと振るう。
すると夜空に「隙間」が生まれる。
「私は貴女のことを思って言ってるのよ?この異変は人間達によるモノ…それを貴女が解決する事はどういう意味か理解しているのかしら?」
「ええ、知ってるわ」
私はそんな問いに即答した。
この私の答えに紫は目を細めた。
分かってるわよ…この異変は民衆の意思
そして、博麗の巫女は民衆…人間達側の存在
なのに私は妖怪側に付き、あろう事か妖怪の為に闘っている。
コレは幻想郷にいる人間達を裏切る行為でもある。
コレが表沙汰に出れば間違いなく、私は人間達の敵となる。
そして、博麗の巫女は人を手にかけることができない。
そう、博麗の巫女が妖怪側に付くなんてあってはならない事
けれども、
「私はね、友達の為に闘いたいのよ…紫なら分かっているでしょう?」
そう言うとお祓い棒を構えた。
するとその行動が不可解だったのか眉を顰めた。
いや、この女は知っていた。
私がこういう行動をとる事も…ソレを理解していてわざと知らないふりをしている。
「貴女は馬鹿よ…霊夢。まるで何も知らない子供のよう」
隙間の中の目がギョロッと一斉に私を見た。
それだけでまるで何万の人々に睨まれたかのような気がして竦みそうになる。
だが、その時ふと頭の中で魔理沙が言った言葉が響いた。
そして、フッと自嘲気味に笑うと私は陰陽玉展開した。
まるで私を支点にして衛星のようにクルクルと陰陽玉は回った。
貴女が私を守る?それは逆でしょ?
スパァンと目の前に止マレと書かれた錆まみれの標識が突き刺さる。
だが、それで臆することもなく逆にそれを足場にして紫へ一歩でも多く近づく。
時には落とし穴の様に展開されるスキマに惑わされぬように気を付けながら御札を投げつける。
だが、それらは全て紫に届く前にスキマに吸い込まれていく。
ちぃ、と小さく毒づくが当の紫はニヤニヤと見つめるだけだ。
手を出すまでもない、そんな余裕がここからでもひしひしと伝わってくる。
ギリッと歯軋りをするがやはり明確な力量の差に追い付けずに距離を置いた。
「アンタ、それ反則じゃない?」
「あら。コレは弾幕ごっこじゃないのでしょう?」
そう言うと紫は楽しそうに笑った。
カンを頼りに咄嗟に後ろに飛ぶ。
すると飛ぶと同時に私がいた場所に標識が突き刺さる。
アンタ、博麗の巫女を殺す気?
そう呟くと咄嗟に駆け出した。
ガガガガンと連続して標識のようなモノが私を追うようにして地面に突き刺さる。
いつか追いつかれると判断し敢えて横に回避した瞬間、私を囲むようにしてスキマが現れた。
ハッ!と上空に逃げようとした頃には既に上は塞がれていた。
予想通りってやつよ。そんな声が聞こえた気がした。
囲まれた!?
そして、紫はウインクと共に指を鳴らした。
その瞬間、左から右へ上から下へ膨大な量の鉄くずが流れ出た。
ソレは圧倒的な質量を持って蹂躙した。
だが、シュンっという音と共に紫の後ろ死角に出現した。
「アレは偽物よ!」
間髪入れずお祓い棒を叩きつけるがスキマから出た標識に止められる。
ガキンッと硬い感触に手が痺れた。
紫はクスリと笑った。
「ええ、知ってるわ」
まるで後ろに目があるかのような行動に舌打ちするとそのまま、包み込むように夢想封印を発動した。ソレは強い光を浴び紫を包み込んだ。
だが、紫はソレが当たるよりも早くスキマに逃げ地上に現れた。
だが、それで当然諦める気はなく、地面に落ちる勢いを利用し追撃を仕掛ける。
シュンっと異音が生じ遅れて衝撃波が伝う。
紫が余裕そうに避けるのを横目で見つつお祓い棒で叩く。
だが、ソレは紫が持つ標識に受け止められる。
その勢いを利用し背後に飛ぶと息を吐いた。
紫は標識をまるで槍のように構えた。
その視線はかかってこい、と語っていた。
「上等じゃない」
フッと息を吐くと私は紫の懐に飛び込んだ。
その様を見て私はほくそ笑んだ。
と言ってもほくそ笑んでるフリをしているだけだけど。
目の前の巫女は圧倒的な力量の差を感じ取りながらも私を倒そうとしている。
否、彼女が倒そうとしているのはもはや私ではない、いや、むしろ何かを倒そうというモノですらない。
何故なら彼女が越えようとしているものはこの幻想郷のルールそのものだ。
博麗霊夢の能力は<空を飛ぶ程度の能力>
だが、ソレは単に空を舞うというものでは無い。
彼女の本当の能力は
<何事にも縛られない程度の能力>
ソレはまさに意思の強さ。
絶対的な力量差、種族的な壁、全ての法則はこの巫女の前では全て無駄だ。
現に目の前の少女はとっくに限界など超えていた。
見ればわかる。顔色は悪く、肩で呼吸し棒を振るう手は小刻みに震えていた。
その様は今にも倒れてしまいそうな程だ。
なのにその目は強く私を捉えていた。
その目…その決して諦めない目を私はよく知っている。
「はぁぁぁ!」
霊夢は叫ぶと勢い良くお祓い棒を振るう。
ソレを標識で弾くと同時に牽制でスキマから色々なガラクタを飛ばす。
だが、霊夢はそれをギリギリでよけ更に一歩踏み込んだ。
その衝撃で彼女の額を滴る汗が飛沫をあげた。
その様を見て私は懐かしい何かを思い出した。
そう、ソレは確か、彼女がまだ幼い頃だ。