第5話~犬は月を見て吠える〜
前回までの話
文がお茶をたかりに来た。そしてそこまで役に立たなかった、終わり。
「ちょ!?私の新聞がちゃんと役に立ってたでしょう!?第一あの人たちが新聞なんて読むわけないですか、それに私なりに頑張っても妖怪の山の方が忙しくっ…」
役に立たなかった。
萃香が倒れてから3日後の深夜
博麗神社にて
「ふぅ、もうそろそろね?」
そう呟くと湯呑みを置いた。
それを聞くと神社の柱に寄り掛かっていた
魔理沙が八卦炉を手の中で転がした。
その様子を見る限り、ついてくる気は満々のようだ。
その様子をため息をつきながらこういった。
「魔理沙、貴女本当に付いてくるの?下手すると犯罪者よ?」
そう言うと魔理沙は性懲りも無くニヤニヤと笑った。
「か弱い女の子を1人で行かせれないからな、霊夢ちゃん?」
そう聞くと魔理沙はよっこいしょと声を上げて縁側から立ち上がった。
私ははぁと一息つくと地面をタンっと軽く蹴る音と共にふわっと私の身体が浮く。
「あら、貴女に博麗の巫女のエスコートは出来るのかしら?」
そう聞くと魔理沙は箒に跨りながら親指を立てた。
「は、余裕さ。美人のエスコートは朝飯前さ!」
魔理沙は軽くジャンプするように地面を蹴ると箒が魔理沙を乗せ、浮いた。
「さぁ、霊夢、行こうぜ!」
そう言うと二人の少女は夜の空に消えた。
ー人里から少し離れた丘ー
「うっ、これはすごい妖力だぜ」
そう言うと箒を担いでパンパンと服を叩いた。
その人里の雰囲気は3日前とは打って変わっていた。
この目視で確認出来るほどの妖力、この異様な力に思わずむせ返った。
もしかしたら異様に静かなこの人里はこの莫大な妖力によるものかも知れない。
文が危険視するのも当然ね。
「一応、あっちの方向から強くなってるみたいね」
そう呟くと人里で最も大きい屋敷を見た。
人里と言えどさほど小さい訳では無い、だが、その建物はここからも目視で確認出来るぐらいだ。
その名も玲紗堂
私が生まれた時には既にあって何のためにあるかは分からない建物だが、とにかく其の大きさは立派でここからでも一部覗くことができる程だ。
取り敢えず、眺めていても仕方が無いと言うことで魔理沙と共に行動を開始した。
この静かな暗闇に魔理沙との肝試しを思い出した。
あの時はこの暗闇に何も感じなかったが、今はこのむせ返るほどの妖気のせいがひどく歪で危険なものに感じた。
そんな異様に静かな人里を五分ぐらい歩き丁度、三日前、萃香が倒れていた場所に差し掛かり、地面に未だくっきりと残る血痕を見て足が止まった時だ。
「止まりなさい。そこのお2人」
暗闇から凛々しい声が響いた。
暗闇に目を凝らすとソコには1人の女…否、
人犬がいた。
妖怪?今の状況下で妖怪が人里に居ることに眉を顰めた。
容姿は茶色のショートに意思の強そうな赤い目、そして何より異彩を放つのはその犬耳と尻尾だろう。
妖怪犬の類いだろうか?
「おいおい、早速お出ましかな?」
そう言うと魔理沙は八卦炉を取り出し一歩前に出た。
「魔理沙、油断しないで」
そう言うと魔理沙は小さく頷いた。
口では軽口を言うが相手の気概が離れていても伝わってくる。
妖怪犬はその様子を見るとフッと息を吐き腰のふた振りの剣を構えた。
「どうやら、貴女が噂に聞く博麗の巫女ですね?横の方は存じませんが、私の名は犬飼健と言います。以後お見知りおきを」
ソレを聞いて魔理沙は明らかに不満そうな顔をした。
うん、何となく言いたい事はわかる。
「ふん、何奴も此奴も博麗の巫女、博麗の巫女、私だって異変解決してるんだぜ!私の名は霧雨魔理沙!妖怪退治は巫女の特権じゃ無いんだぜ?覚えておきな。」
「私の名は…まぁ、知ってるだろうし、いいわ」
そう言うとタケルはコクリと頷いた。
「もう1度申させていただきます。ここから先はお通しできません。引き返し下さい……」
ですが、と区切りタケルは言った。
「もし、通りたいと申すなら、私にお力をお示しくださいな」
それを聞くと魔理沙はへへ、と笑った。
その様子はまるでパーティが待ちきれない子供の様だ。
「よし、それじゃぁ、弾幕ごっこの始まりだぜ!」
その言葉と共に魔理沙は駆け出した。
「ふん、なかなかの担い手!ですが、私には及びませんよ!」
そう言うとヒュンヒュンと双剣を振った。
特有の構え方をするとタケルは静かに息を吸った。
「へへ、霊夢以外と闘うなんて久し振りなんだぜ!」
魔理沙はスカートの下から謎の緑色の液体の入ったフラスコを取り出すとそれを投げつけた。
タケルは目を細め、剣を握り締めた。
それと同時に間髪入れずに魔理沙は走り出した。
「ふぅ!!」
タケルはまるで舞を踊るかの様に剣を振りフラスコを叩き切る。
あまりの腕の良さにまるで止まっているかのように感じてしまうほどだ。
だが、斬られたことによりフラスコの中身が空気と反応し爆発が起き煙幕がタケルの視界を封じる。
タケル自身のその腕前は見事…だが、それこそ魔理沙が狙った結果そのものだ。
魔理沙の右手にキラリと光るカードが握られる。
スペルカードシステム、ソレは私が考案したシステムであり幻想郷のルールだ。
そして、魔理沙は右手を掲げ高々に宣言した。
「行くぜ!魔符スターダストレヴァリエ!」
その瞬間彼女の箒が光を放ちながらロケットのようにタケルに向かって飛んだ。
タケルはそれを済んでのところで避けた。それを見て魔理沙はチッと短く舌打ちした。
だが、この技はこれで終わりでは無いのだ。
魔理沙の箒からまるで飛行機雲のように星形の光が舞う。ソレは幻想的にタケルを囲むと静かに降り注いだ。
ソレはまるで大規模なイルミネーションのような輝きを放った。
その派手な攻撃は如何にも魔理沙らしい。
ニヤリと魔理沙は美しい光を前にして笑った。
魔理沙のその余裕の笑みは勝利を確信したからか。
「な、コレは!」
タケルは危機を感じ悲鳴をあげるが既に遅い。
魔理沙はそんな様を見て指をパチンと鳴らした。
「チェック・メイトだぜ!」
そして、タケルを中心に静かに爆発した。
ソレは音なく強大な閃光を散らした。
魔理沙は背を向けそしてふと笑った。
「ふぅ、1丁上がり!」
砂埃が辺りを舞う。
そして、魔理沙が歩き出した瞬間、突然声が響いた。
「私はまだ負けてませんよ」
「えっ!?」
そう言うと煙幕の中から剣を振りかざしながらタケルが現れた。
スパァンとタケルの双剣が地面を裂く。
「ちくしょう!」
スッと前髪の毛がパラパラと舞う。
間一髪の所を魔理沙は避け箒を乗って空に逃げた。
タケルはその様子をチッと舌打ちをしながら剣を構えた。
「おいおい、私を殺す気か!この幻想郷では全ての勝負は弾幕ごっこで決めるんじゃないのか?ッて、うお!?」
タケルは片方の剣を魔理沙に向かって投げつけると怪訝な顔をした。
「弾幕ごっこ?何を言ってるのですか…それより先ほどの攻撃といい手を抜かれるのは心外です。その無礼に免じ死になさい!」
魔理沙はうおッと妙な声を上げると何とか避ける。
ヒュンヒュンと円を描きながらブーメランのように戻ってきた剣を握るとタケルはヒュンと消えた。
否、凄い橋脚力で上空の魔理沙よりもはるか上を跳んだのだ。
「魔理沙、上!」
咄嗟に霊夢が叫ぶが魔理沙は突然過ぎて反応が遅れてしまう。
魔理沙の顔が恐怖で歪む。
「ちょっソレ反そ…」
「そして、貴方の負けです、魔法使い!」
その白と黒の双剣がそれぞれの閃光を描きながら魔理沙の首を狙う。
ヒッと魔理沙の悲鳴が小さく響く。
だが、タケルの双剣は魔理沙の首を斬ることは無かった。
何故なら…
「私がいる事をさっきから忘れてない?タケルさん?」
ガキンッという異音と共にその剣は私の持つお祓い棒により防がれたからだ。
ギリギリと火花が散る。
チラッと顔を見ると魔理沙は凄く泣きそうな顔をしていた。
うん、役得役得
「なっ、一騎打ちに手を出すなど!それでも巫女か!」
どうやら手を出させる事が相当ご立腹だったらしいがルルルと犬の様に唸り声をあげると睨みつけてきた。
ソレを私は受け流すとつまらなそうに呟いた。
「ふん、貴方達が最初にルールを無視してきたでしょ?」
ギリリッとタケルの歯軋りが響く。
ソレを聞きながらお祓い棒で剣を刈り取るかのように振るった。
ソレは剣を背に引っかかるようにして弾き、剣を上に飛ばした。
キンッと甲高い音と共に双剣が円を描きながら宙を飛ぶ。
その様を健は歯噛みしながら剣を悔しそうに眺めた。
そして、ハッとしてこちらを見直した。
だが、その時には遅すぎた。
何故なら既に私達を囲むように札が配置されていたからだ。
「貴方がその気なら私もその気よ?」
そして、手に持つカードを見せながらふと笑った。
ーー霊符・夢想封印ーー
「な!?結界!!なるほどコレが博麗の巫女ですか!」
そして、光が少女達を包み込んだ。
「全く世話の焼ける奴ね」
そう呟くと近くにタケルと名乗る犬人を寝かせた。
まさか封印した瞬間に空中で気絶しちゃうなんてね、ほんとに焦ったわ。
結果的に見れば魔理沙が空中で咄嗟に拾ってくれたおかげてこの子は助かったのだが…
その様を見て魔理沙はエッヘンと一言。
チラリと横を見ると魔理沙はもう凄いドヤ顔をしていた。
目で褒めて褒めてと訴え掛けてくる、仕方ないから代わりにデコピンをした。
パチンといい音がして魔理沙はおでこを押さえながらフラフラと後ろに歩いた。
そして涙目で訴えてきた。
「イッッタイんだぜぇぇ!何するんだ。私がいなかったら、居なかったら!」
余りにもうるさいからお祓い棒を口元に近付けて黙らせた。
「良い?魔理沙。あのまま放っておいたら貴女は死んでいたわ」
そう言うと先ほどのことを思い出したのかフルフルと頭を小刻みに振った。
「良いわね?あなたも本気を出しなさい、じゃないと私の足を引っ張ることになるわよる」
そう言うと魔理沙の口元に付けてるお祓い棒を外した。
「霊夢…」
「そんな声上げない、いい?次そんな声上げたら置いてくわよ」
そう言うとモジモジと何かを言いたそうに魔理沙は下を向いた。
その様を見てはぁと息を吐いた。
「貴女の八卦炉は偽物かしら?全く、私の知る魔理沙は1人で冥界に突撃をするような人だと思ったんだけどね」
そう言うとバチンと、魔理沙の背中を叩いた。
魔理沙はイッと悲鳴を上げるとこちらを真っ直ぐに見た。
「…霊夢が行くんなら行くんだぜ!私が霊夢を守るんだ!そう言ったから…そう言ったから!」
そんな涙を浮かべながら言われたってもねぇ…
そう言ってクスリと笑うと魔理沙がムッとして私の腕を引っ張って歩き出した。
登場人物
犬飼健については第三話を参照