第19話〜現実VS理想〜
咄嗟に目を瞑ってしまって何が起きたかは理解出来なかったがその独特な感触と剣に滴る血を見てハッと我に返った。
咄嗟に霊夢を見ると赤く染まる胸を押さえ、フラフラと姿勢を崩した。
その様を見て私は疑問に思った。
何故攻撃が当たったのか?
そして、彼女が膝を折り地面に手を着いて苦しげに肩で息をしているところを見て確信した。
私は咄嗟に我に返り彼女に肉薄し剣を首めがけて振るうもソレは容易く受け止められ蹴り飛ばされた。
相変わらず鋭い蹴りだ、だが、ズザァァと地面を削りながらもなんとか受け切れることが出来た。
やはりそうか…
そう呟くと口の周りについた血を拭う。
「貴女の力は制限がある、そういう訳ですね?」
「………??」
霊夢は何も言わず左右にフラフラと揺れた。
その姿はとても弱々しく立つことすら大変そうだった。
そう、それはまさにチャンスだった。
今なら全力を尽くした一撃をぶつけられれば勝てる!
ギリッと剣を握り込み妖力を全力で通す。
するとそれに呼応するかの如く剣が淡く光り輝いた。
「…っう、この一撃こそ私達の思いっ!私達がこの理想に掛けた意思!だからこそ、絶対にコレで終わらせてみせる!」
そう叫ぶと私は飛んだ。
ドバっと土が抉れる音と共に一気に近くの民家の屋根に兆脚し、瓦を砕きながら満天に飛んだ。
遥か上から地上の霊夢を見ると一つの妙な感覚に囚われた。
この怒りとも悲しみとも取れぬ気持ちが何なのかは分からない、だが、それでも剣を握る手に力を込める。
「っァァァ!いっけぇぇぇ!!」
その様はまるで彗星のようだった。
剣に込められた妖力が容量を超えスパークの様に残光を散らす。
二つの剣からオレンジ色と水色の異なる残光が交互にうねる様な軌道を描きながら闇夜を照らした。
ぐぅぅ、熱い、感じる感覚はそれだけだった。
あまりの高速に手が焼け、剣がプラズマ化する。
たが、ソレを歯を食いしばって耐えた、其れこそが私の覚悟だった。
歯茎から血が出て、口の中が血の味で染まる、視界はチカチカと明暗し、既に感覚の無い両手に更なる力を込めた。
霊夢はゆっくりと顔を上げそんな私を見た。
その顔を見た瞬間、目を疑った。
その顔は、先程よりも少ない影が顔半分を覆っていた。
そして、その影に覆われてない素顔には先程とは違い理性の光があったからだ。
そして、その少女の視線は激痛にあえぐ私の目を真っ直ぐと見ていた。
まるで私の覚悟に答えるように…
霊夢は静かにお札を構えると語る様に呟いた。
「…夢想封印・冥」
その短い言葉に呼応するかのように墨汁のようなモノが小さく次々に弾け霊夢の周りに毒々しい魔法陣が描かれてゆく。
ソレは不気味にユラユラと湯気のように妖力を飛ばしながら霊夢を包み込んだ。
霊夢はパァンッと異音を鳴らし、屋根に瞬時に飛び移ると私に向かって一直線に飛んだ。
霊夢の手からゆらゆらと揺れる妖気が線を描く。
私と霊夢の目が合う。
その時、私はハッとした。
理解出来なかった…その目は、その目は慈悲、悲しみに満ちていた。
ソレは先程とは違い何処か哀れみを感じさせる悲しい目だった。
なぜ敵にそんな顔ができる?
そう胸の中でつぶやくと同時に私はどこか悟ってしまった。
ーーーそうかーーー
ソレは私を何処か優しく包み込んだ。
空中で剣を握る手に力を込めた。だが、私は酷く落ち着いていた。
いや、安心したとも言える。
端からわかっていた事だった。
そう、端から私達は必要じゃなかった。
ー私達が居なくてもこの世界は大丈夫だー
と
私と霊夢の全力の一撃が空中で激突し溢れんばかりの光が私達を包み満ちた。




