第2話~月の医学と鬼〜
前回までの話
真夜中に肝試しを楽しむ霊夢と魔理沙。
口では面倒くさいと言いつつも風情を楽しむ二人が見てしまったのは大量の血を撒き散らし地面に倒れている萃香だった、霊夢は取り敢えず幻想郷で一番腕が立つ医者の元に連れていった。
「容態に問題は無いわ…彼女が鬼で助かったわね、彼女じゃなければ間違いなく死んでいたわ…下手すると私達よりタフじゃないかしら。」
そう言うとクルリと丸椅子を回した。
永琳、彼女はこの幻想郷で最も医学の知識のある医者であり、その腕は永遠の生命を与えてしまう不老不死の薬である蓬莱の薬さえも作ってしまうほどだ。
「それにしても彼女が負けるなんてね…鬼が負けるなんてそれこそ寿命か鬼みたいな巫女だけかと思ったわ」
そう永琳は軽口を言った。
ソレでも彼女はこんな深夜にも関わらず対応してくれた。
人里では誰も妖怪、ましてや鬼の治療など見てはくれない。
「ありがとう永琳、貴女には感謝しきれないわ」
そう言うと彼女はクスッと笑った。
「私は医者よ?患者がいるなら助けるのは当然よ、さて、もうそろそろいいかしら?何処ぞの鬼さんと巫女のせいで起こされて眠たいの」
もう1度私は会釈すると背を向けて診察室のドアに手を掛けた。
「あぁ、そう、傷の具合なら優曇華に聞きなさい、あの子なら魔法使いと一緒に萃香の所にいるはずだから」
「わかったわ」
そう返事をすると扉を開け、治療室に向かった。
「あぁ、あと一つ仕方ないとはいえ、今度は竹林を吹き飛ばさないでね?てゐが酷く怯えていたわ。」
そう声をかけられ、肩をすくめた。
「傷の具合ですか…結構酷いですよ?」
そう言うとモジモジと優曇華は喋り出した。
横には魔理沙がだらしなく壁にもたれ掛かっていていた。
その態度には余裕が見えるが、手足は震えていた。
「まず、背中と足、頬に大きな切創、全身打撲、全身に大小の骨折、右手欠損…正直、萃香さんだから良かったのです…萃香さんじゃなければ右手どころか命さえも…」
そう言うとグスッと鼻を鳴らした。
「こんな傷最近は見たことがありません。ソレに萃香さんレベルが倒されたとなると…」
「さぁ、誰だか知らないが少なくとも弾幕ごっこじゃない事は確かだ」
そう魔理沙が呟いた。
弾幕ごっこ…ソレは私が考案した決闘方式でお互いの美しさと強さを競う決闘で、力ある妖怪同士の戦いを避けるためのモノだ。
今となっては幻想郷を構成する大切なシステムのようなものでソレが適用されてないということは…
「魔理沙…少し行ってくるわ」
そう言うと背を向け歩き出した。
「ま、待てよ、霊夢!」
そう言うと魔理沙は私の腕を掴んだ。
「何よ?萃香を倒せる様な奴を倒せるのは私だけよ?」
そう言い振り払おうとして、逆に掴まれた。
「れ、霊夢はもっと自分を大切にして欲しいんだ!霊夢が死んだら…死んだら!」
そう魔理沙は叫んだ。
驚いてその顔を見ると……魔理沙は泣いていた。
ふと、優曇華を見るとモジモジと横を見た。
「…魔理沙」
「私も付いていく」
今度はか細い声ではなく、意思の通った声で真っ直ぐと目を見て言った。
その真っ直ぐな瞳に私は目を逸らした。
私は見つめられると弱いのよ…
「魔理沙、これだけは言っとくわ…今回は危険なのよ?」
「そんなの知ってるんだぜ!ソレに…」
「ソレに?」
「霊夢を守るって言った…から」
そう言うと魔理沙は恥ずかしそうに下を向きながら私の腕を引っ張って治療室から出た。
去り際に優曇華と目が合い、目でありがとうと伝えるとニッコリと笑って返してくれた。
そして魔理沙と共に永遠亭から出た。
登場人物
八意永琳
とある事情で本物の月を隠す異変を起こした。
その叡智は月の頭脳とも称されるほどでありその実力と共にこの幻想郷の中ではトップクラスでもある。
またどのような薬であれ材料さえ揃えば製作可能である。
鈴仙・優曇華院・イナバ
八意永琳の下で働く月兎であり、実際の所八意永琳を師匠と呼んでいる。
薬師としての仕事が主で時たま荒事を任されることもあるほど戦闘センスもある。