12話〜無数のナイフと瀟洒なメイド〜
ヒュンと風を切るような音ともに刀が迫る。
ソレを紙一重で避けると札を射出した。
だが、それらはバターを切るかのようにそれでいて流れる様にして容易く切断された。
あまりの素早さと手際の良さにまるで私達が止まっているような錯覚さえ覚えた。
ヒラヒラとお札が紙吹雪のようにミコトの前を舞う。
刀を構え、ミコトは静かに睨みつけた。
だが、それでいい
瞬間、札に妖力を流し込み四散させる。
ソレは比較的に小規模で元々ダメージを狙ったものではない。
だった一瞬の隙を付く為だ。
「魔理沙!」
そう叫ぶと私は咄嗟にミコトに肉薄する。
魔理沙もその意図を理解してか、ミコトを後ろから挟み込むようにして滑り込むと八卦炉を構えた。
私は叫びながら勢い良くミコトの腹に掌打をした。
その瞬間、殴った部位を中心に巨大な陰陽の印が浮かび上がる。
「宝符・陰陽宝玉!」
「魔砲・ファイナルスパーク!」
「クッ!?」
それらは強大な光を撒き散らし大きな爆発をあげた。
爆発の煽りを利用しシュンシュンと後ろにジャンプしながらとっさに距離を取った。
衝撃で舞う砂埃にゲホゲホとつい咳き込んだ。
手応えは充分、最高の一撃だった。
だが、
「……マジかよ」
魔理沙は呆然と呟いた。
私も目を細めた。
「ふぅ。まだまだ甘いですね」
みことは健在だった。
多少のダメージはあったのだろうか、服は少し汚れているし、擦り傷程度の傷口がちらほらある。
だが、それだけだ。
アレだけの攻撃が集中すれば並みの妖怪なら即消滅だ、なのに喰らった本人はケロッとしていた。
シュンシュンと刀を振るうと私達を睨みつけた。
「さぁ、今度は私から行かせてもらいますかね!」
そう呟くと私に刀を向けた、咄嗟に魔理沙が動こうとするが、逆に私が叫んだ。
「私じゃないッ、魔理沙!」
え?、と魔理沙の足が止まるがもう遅い。
私の前にいたミコトの姿が霞んだかと思うと
ヒュンと言う異音と共に人間離れした動きで魔理沙の横にミコトは滑り込んだ。
「なっ!?速っ」
そして、魔理沙の首を狙い水平に刀が振るわれた。
魔理沙は間一髪で屈んで避ける。
帽子を刀が掠め、飛ばされるがそんなことを気にしている暇はない。
ガバッと音を立てて地面に亀裂が走る。
それを魔理沙は青ざめた顔で見た。
だが、当然相手は待ってくれる訳もなく
ミコトは横目で焦る魔理沙を見て言った。
「まずは1人」
「ちょっ!?タンマ!」
そう魔理沙が叫ぶが当然、相手の手が止まるわけはなく、シュンッという異音と共に魔理沙の背後の建物ごと切り刻んだ。
魔理沙はその威力に目を丸くした。
魔理沙は必死に太刀筋を見抜こうとするが
相手の素早い斬撃に刀を追うことすら難しそうだ。
ち、まずい、このままでは遠からず避け損なう。
私はまるで背中を押されるように走った。
魔理沙は残念ながら現時点では、接近戦で戦う術がない、否、仮にあったとしても戦い慣れてない接近戦では魔理沙にまず勝ち目は無い。
懐からお札を取り出し握り締める。
足元に結界を作り出し、それを足場に兆脚する。
ヒュンと風を切ってミコトの上手を取った。
「……はぁ」
だが、ソレすらも読み通りと言わんばかりに刀で地面を切り上げ、魔理沙を黙らせると返す刀で私を捉えようとした。
ソレが私に触れようとした瞬間、スペルを叫んだ。
「夢想亜空穴!」
シュンという音ともにミコトの背後を取る。
ー神技・天覇風神脚ー
「たぁぁあ!」
そう叫ぶとミコトに蹴りを入れた。
ソレはドパァァンと弾けるような音を立てた。
が、ソレすらも後ろに避けられてしまう。
ちぃと舌打ちしながら睨むと魔理沙を助け起こした。
「まさか、さっきのヤツが避けられるなんてね、」
「寧ろ、あの程度でその考えとは…些か興が乗りませんね。」
ミコトは体勢を低くして刀を構えた。
私もお祓い棒を構える、ゴクリと喉がなる。
受け切れるか?そんな考えが脳を過ぎる。
咄嗟に頭を振り思考を切り替える。
いや、受けきれなかったら死ぬだけよ。
ミコトはそんな私の様を見てフッと笑った。
何がおかしい!そう聞く暇はなかった。
シュパッと言う音がした時には既に刀が振るわれていた。
咄嗟に私のお祓い棒で受け止める、ギャリギャリと独特な音がする。
一瞬の拮抗状態のあと、ミコトは刀を外すと一瞬の間を置いて連続で切り出した。
ガンッ、キンッ、カンッと甲高い音が響く。
返す刀で段々と重くなってゆく斬撃にギリッと歯を食いしばりながらなんとか応じた。
じきに返せなくなる。
その時、魔理沙の声が響いた。
「霊夢、避けろ!」
だが、私の意識が魔理沙に移った瞬間、ミコトの蹴りが直撃し吹き飛んだ。
「がっ!?」
「クッソぉ!」
そして、その瞬間にマスタースパークが迫った。
ソレをミコトは冷めた目でジロっと見ると刀で一閃した。
すると、その太刀筋に従うようにして光線が切り裂かれた。
ドカァンといる爆発と共に民家に直撃した。
その結果がどうでもいいと言わんばかりに刀をつまらなそうに振るとミコトは構えた。
「光線を切るのは反則なんだぜ…」
魔理沙は呆然と呟いた。
するとミコトは魔理沙を見た。
「光線ごとき切れねば何を斬れッ!?」
ソレは一瞬の隙だ。ほんの一瞬私から意識がずれた。…だが、一瞬でもあれば充分!
「ようやく、隙を見せたわね!」
そう肉薄し叫ぶと地面を殴った。
瞬間、地面を覆い尽くすが如くの魔法陣が展開される。
咄嗟にミコトは逃げようとするがその時には足元に仕掛けておいた札がベッタリと張り付き動きを封じた。
「ちぃ、何度やっても無駄な事を」
そう叫ぶと同時に片足の結界を力技で砕いた。
無論、この程度で封じられるなんて夢にも思ってない。
だが、布石は打った。
ーー神技・八方龍殺陣ーー
「いっけぇぇ!!」
ビンッと言う音と共に地面から覆い尽くすが如くの弾幕が打ち上げられた。
ソレは光の柱となり、上空へと伸びていく。
更に範囲は広がり辺りの地面も巻き込みながらメキメキと異音を発しながらも完璧にミコトを包み込んだ。
一点集中型が効かないなら逃げれないほどの範囲攻撃を決めてやればいい。
だが、これでも足りない。
そして、間髪入れす魔理沙を見て叫んだ。
「捉えた!」
「わかってるっ!」
そう叫ぶ頃には魔理沙は意図を察し既に八卦炉を両手に構えていた。
ー恋心・ダブルマスタースパークー
「いい加減くたばりやがれ!」
そう魔理沙は叫ぶと同時にマスタースパークが放たれ目を焼き付くが如くの光線が左右からミコトを挟み込んだ。
咄嗟に私は結界で自分の身を守った。
直撃していない筈なのに足が一瞬、宙に浮いた。
クッと短く悲鳴を上げると私は目を思わず覆った。
シュウウと光線が止まると、結界を解いた。
チリチリと熱せられた空気に顔を顰めると煙を睨んだ。
だが、
「…流石に今のは効きましたよ」
ビュオッという空気がうねる音と共に煙の中からミコトが現れた。
その姿は確かに傷が目立つが未だ、健在だった。
流石に頭の中が真っ白になった。
「マジかよ…」
そう魔理沙は呆然と呟いた。
コレでなぜ倒れない?その疑問が頭から離れない。
その時、つい考えてしまった。
勝てるのかと
「霊夢!」
魔理沙の叫びを聞いて我に戻るには遅すぎた。
その時には既にミコトの手によって地面に押し倒されていた。
ドカッという音と共に地面に縫い付けられた。
何をされたのかすら理解出来なかった。
あまりの衝撃にグハッと息が無理やり吐き出される。
「きっさまぁぁ!よくも霊夢を!!」
そう叫び魔理沙は肉薄するが蹴り1発を喰らい
魔理沙は小さい悲鳴を上げると容易く民家に向かって吹き飛ばされた。
視界の隅でモゾモゾと瓦礫を退かしながらクッと腹を押さえ魔理沙はよろよろと立ち上がった。
咄嗟に魔理沙は八卦炉を構えるが私が押さえられていることに気づき、舌打ちした。
「貴女はまだまだ弱い。」
そう言うと私の首を持ち掲げた。
足が宙を蹴る。
「れっ霊夢!!」
首が締まり抵抗するがまるで万力に挟まれた如く動くことが出来ない。
くぅうと声にならない悲鳴を上げるとミコトはつまらなそうに顔を振ると、咄嗟に接近した魔理沙に向かって私を投げた。
あまりの寮力に魔理沙は私を受け止めきれず私を抱えるような形で地面に倒れ込んだ。
「魔理沙…ありがとう」
そう言いつつゲホッと喉を抑えて、ミコトを睨みつけるがミコトは肩を竦めるだけだ。
そして、私たちに向かって歩き出した。
咄嗟に魔理沙は立ち上がると私を守るように八卦炉を構え、立った。
その様子にミコトは目を細めた。
「その心持ちは立派ですがね、自分を守れない人間如きが人を守る気になるなど本当に…浅はかな!」
そう叫んだ時にはミコトは魔理沙の前にまで肉薄していた。
死ね、そう言う言葉が聞こえた気がした。
その時、奇妙な事が起きた。
ソレは何かがミコトに向かって投擲されたのだ。
ガギギギンという連続的な金属音が鳴り響き、あたり1面にナイフが雨のように突き刺さった。
いや、投擲ではない…まるで「場所」に飛ばされたような感覚、この一瞬の攻撃、私達はこの攻撃にとても見覚えがあった。
ミコトは刀を構えると同時にまるで縫い付けるようにナイフが降ってきた。
ソレを滑らかな剣戟でミコトは弾くと上を向いた。
その目を細めるとミコトは静かに呟いた。
「まさか、貴女が敵に回るとはね……十六夜咲夜」
そう言うと、とある館のメイド長の声が響いた。
「貴女は誤解しすぎですわ、私がお嬢様を裏切るとでも?」
そう言うと彼女は華麗に民家の屋根から地面に飛び降りた。
その事が解せないようでミコトは眉を潜めた。
「私の読みでは貴女は紅魔館の者達を恨んでると読んだのですがね…まさか、こうも人間に敵対されるとは…なかなかに凹みますね。」
それを聞くと咲夜は指を鳴らすとその手には一つの便箋が握られていた。
「私の何を理解したかは存じませんが…コレは立派な侮辱です。ふざけるのも大概にしてください。」
そう言うと咲夜は便箋から手を離し、一瞬で細切れになった。
「咲夜、ソイツ結構強いわよ…」
そう言うと私は立ち上がった。
咲夜はそんな私を見てハァとため息をついた。
「先程から見させてもらいましたが…あの程度ならお嬢様を本気で怒らせた時よりはマシですよ。」
あ〜、プリンの時なんて死にかけました。
そう困った様に呟くとシュンという音と共に咲夜の手に無数のナイフが握られた。




