11話〜英雄譚〜
「こ、降参だぜ」
そう地面に寝ながら呟くも喉先の刃が外される事は無かった。
喉先数センチの所にはピタリと刀が構えてあった。
その気になれば一刺しで私の命はここで散る事になる。
先程の言葉はこの少女には届いていないようで剣先はむしろ私の喉をゆっくりと舐めた。
汗が滴り、喉がゴクリとなる。
そんな様をミコトは静かに眺めた。
その目は酷く残酷でとても冷たかった。
結果的に私では差があり過ぎた。
たったの数手で気づいた時にはこのザマだ。
はぁ、とため息をつくとミコトは眉を潜めた。
恐らく、随分余裕そうに見えたんだろう。
残念、私はピンチになると溜息が出るタイプの人間なんだな。
「さぁ、これで詰めですね…最後に言うことはありますか、魔法使い」
いや、だから降参。そう目で訴えかけるが肝心の相手は気づいてくれる気配がない。
単純に口で言えばいいと思うがそんな事をした時には速攻で串刺しに合うだろう。
仕方なく片手に持つ八卦炉を握りしめた。
このゼロ距離から撃てば流石にダメージは入るだろう、だが、倒せるか?
そういう疑問が胸に落ちる。
ここまでの戦いを経験してからではたったの一撃ではこのバケモノを倒すには心許なさすぎた。
そう、普通のマスタースパークなら。
霊夢、許してくれよ…
そう心の中で呟くと八卦炉に莫大な魔力を注ぎ込む。
すると、紫電ではなく黒電がジリッと舞った。
どうやら小槌の影響は未だ健在のようだ。
妖器、この八卦炉の最近の別名だ。
この八卦炉に強大な魔力を一気に注ぎ込み、それをリミッター解除した状態で放つとソレは黒雷を浴びたマスタースパークになる。
私はそれをダークマスタースパークーと名付けた。
コレは現在私が使える最強の攻撃でもある。
この一撃なら恐らく勝てる、、無論、この距離で撃てば私も反動の煽りを喰らって死ぬ。
否、万全な状態でも使えば危険な技なんだが…
だが、私の躊躇いは一瞬だった。
何。単純な事だ、私は無駄死にだけはしないぜ!
覚悟を決め、サッと八卦炉を向けようとした瞬
間、スパァンという何かを叩きつけるような音と共に横から何かが飛来してみことを吹き飛ばした。
だが、本人は大してダメージが入っていないらしく、何事も無かったかのように地面に着地する。
それとほぼ同時にザァッと滑るような音と共にミコトは私を睨んだ。
違う、私の更に背後を睨みつけた。
その反応を怪訝に思い、つられて後ろを見た。
そこには
「魔理沙。アンタも腕が落ちたんじゃない?」
お祓い棒をつまらなそうに振るう霊夢が居た。
「れ、霊夢!遅すぎるぜ」
そう言うと彼女はニヤリと笑った。
「たく、私を守るんじゃなかったの、魔理沙?まぁ、アンタが私を守れるかどうかは置いといてね。」
そう言うとハイと霊夢は手を伸ばした。
ソレをパシンと強く握り返すと立ち上がった。
「へへ、ようやく逆転開始かな?」
そう笑うと私は八卦炉を構えた。
「貴女は博麗の巫女…ですか、随分と若いですね。てっきり彼女が来るのかと。」
そう言うと彼女は面倒くさそうに息を吐いた。
すると、横の魔理沙が油断なく八卦炉を構えながら言った。
「アイツの名前は彦五十狭芹彦命…恐らく萃香をヤったのもコイツだ。」
彦五十狭芹彦命…
その名がふと脳裏を過ぎる。
でも、コイツが萃香を倒した犯人って事さえ判れば問題ない。
「さっき、私の事を見た瞬間、博麗の巫女って気がついたわね…それに彼女ってことは…あなた私のお母さんと戦ったことがあるようね?」
そう呟く。
お母さん、私が小さい頃にいつの間にか居なくなってしまった私の一つ前の巫女。
今では顔ですら思い出す事は出来ない、後で紫に聞いた話では妖怪に殺されたとか言われてたけど…
そう呟くとミコトはギロっと睨んだ。
「貴女のお母さんには痛い目を負わされましたよ、ソレこそ、貴女のお母さん…失礼、先代巫女を倒すというのも今回の目的の一つでしてね」
ですが、と言葉を切りこう続けた。
「その様子では死んだのでしょうね、なに、彼女が健在なら今頃、この里は粉塵に帰してますし…まぁ、良いでしょう…代わりの巫女がいるならソレはソレで楽しめそうですし」
そう言うとミコトは刀を構えた。
そして、ミコトが射るように目を細めると同時に私達は駆け出した。




