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東方 幻桃鬼想  作者: 幻茶
11/22

10話~親の気持ち子知らず〜

前回までの話


紫は霊夢と戦う中でその霊夢の決して折れぬ心を見て一人の巫女を幻視した。

その1人の娘の行く末を見届ける事の出来ぬ悲しみを背負い一人犠牲となることを自ら望んだ彼女。

そう、それはまさに紫にとってのトラウマであり、罪であり、約束だった。

そしてその約束を胸に紫は決意した。

《貴女まで殺させはしないと》



20mくらい距離を置き、紫を睨みつける。


当の本人は何故か悲しげな表情でこちらを眺めていた。


その顔は今までこの大妖怪と過ごした中でも見たことの無い表情だった。


シュッとお札を構えると印を唱える。


紫はそれを見るなり、静かに手を振る。


ビュンと異音が鳴り響き、私達を囲むようにして隙間が生じる。


ふぅと息を吐くとそれを見ることなく突き進んだ。


ヒュンヒュンと札を左右から投げる。


ソレは弧を描き紫に向かうが全て届く前にスキマに飲まれる。


紫は右手を上げるとパチンと指を鳴らした。


すると、ギュインという異音と共にまるで眼のように見開いたスキマから沢山の弾幕が撒き散らされた。


その美しい光は一つでも当たればお陀仏だ。


それをある時は避け、ある時は結界で守り、

少しずつ距離を詰める。


あと10m、その距離が無限のように感じる。


その時、紫は不意に右手を左へ振った。


瞬間、何の突拍子もなくズドォォンという爆音と共に列車が目の前を走り去る。


ブワッと圧倒的なまでの威圧がビリビリと身体を芯から揺らした。


だが、それも予想通りだ。


ヒュンと足元に仕込んだ結界を足場に飛ぶと、流れる列車でさえ足場にして、紫の上を行く。


「とった!」


「ッゥ!?」


流石に列車の上を飛ぶなど想定していなかったのか紫が焦りの声を上げた。


ヒュンと言う音と共に握ったとっておきのカードの名を唱えた。


「夢想封印・瞬!」


「ッ!?甘い!」


そう叫ぶと同時に、一瞬で紫の元に迫る無数の陰陽玉。


が、紫は咄嗟にスキマを開いて…焦りの声を上げた。


何故ならスキマからは無数のお札が飛び出てきたからだ。


ビュンとお札がまるで雪崩のように出てくると

それらは紫をまるで龍のように囲み、まるで複数の箱で包み込むように結界を作り出した。


「なっ!?」


その様子を見て、私は振り払うようにお祓い棒をヒュンと右に振った。


「知ってるわよ、貴女のスキマ…すべて繋がってるのよね」


神霊 夢想封印むそうふういんしゅん


そして、紫は強い光に包まれた。



「はぁ、私もつくづく甘いわね」


そう呟くと手足を放り出した。


久し振りだった。


誰かに投げ飛ばされるのも


誰かに負けるのも


そのまま静かに夜空を楽しむとザッザッと頭上で足音がし、誰かが私の頭元に立った。


ソレはキュポっと瓢箪ひょうたんの蓋を外すと一呑みした。


そして一拍置いて陽気な独り言のように呟いた。


「それにしても紫が負けるなんてね、正直、驚いたよ」


くぅう、と勝手に酒を飲み、悶絶してるすいかを見上げると頭上の月に手を伸ばした。


「私だって負ける事はあるわ…少々、歳をとりすぎたのかしらね」


そう言うと月を握るように手を閉じた。


だが、当然手の中には何も無い。


結果的に見れば私は今回も止めることは出来なかった。


はぁと溜息が漏れた。


ふん、保護者失格ね、と自嘲気味に笑うと

力なく地面に大の字で寝込んだ。


その様を見て目の前の友はフフッと笑った。


「まさか紫が地面に寝転ぶなんてね、親近感が湧いてきたよ」


そういう友はニヤニヤとしながらホイッと軽く瓢箪を私に向けた。


ソレを受け取るとグビッと一呑みした。


ふぅ。相変わらず鬼の酒は旨い。


確かにこんなにも美味しいお酒が毎日飲めれば鬼が呑兵衛になるのも頷ける。


「貴女、傷はもういいの?」


そう呟くとその問いが面白かったかのように萃香すいかは笑った。


「私は鬼だぞ?あの程度の傷は擦り傷さ!」


「なら、その擦り傷程度で私の可愛い可愛い霊夢を泣かせた罪は重いわよ?」


そう意地の悪い笑顔をすると立ち上がった。


「フフッ、紫こそ負けたフリなんて意地が悪いんじゃないのか?恐らく霊夢も気付いてるよ。」


「優しさよ、貴方も娘を持てばわかるわ。」


「霊夢は紫の娘じゃなかったような…」


それはそれ、これはこれと適当に返す。


パンパンと服に付いた土埃を払うと霊夢が行ったであろう方向を見た。


「どうする萃香、貴女も来るの?」


そう聞くと、萃香はだらしない顔で瓢箪を呷った。


「なに、今回は霊夢に譲るよ。私が出たら面白くないしね。なにより、霊夢の為にならない。むしろ、私としては紫の方が心配だな?」


そう言うと彼女は何の戸惑いなく背を向けると酒を一呑みした。


ゲフッと萃香はゲップをすると萃香は後ろに手を振り、霧になって消えた。


「霊夢の為…ね。確かにそうよ…けど、私もケジメをつけないとね。」


そう呟くと私は生み出したスキマに足を入れた。

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