98.攻めてきた
「という事になったんで、頼む!」
俺は今、ハナに頭を下げて頼み込んでいる。今朝、学院長と話した内容をハナに話したからだ。
「マリちゃんとは武闘大会で引き分けましたし、いいですけど……。貸し一つですよ?」
「はぁ……。ここでも貸しかよ……。お前、そんな貸し作ってどうするつもりだよ」
「別に?貸しは作っておいて損はないですから。今の所はまだ何も浮かんでませんよ」
「思いついた時が怖いからそのまま思いつかないでおいてくれ」
こいつが貸しを使うとしたら絶対ロクでもない事だろ。めんどくさい気しかしない。
「ってわけでアカネ、俺はこれから1週間ハナに付きっ切りになる」
「あー、はいはい。わかったわよ。で、これやればいいわけね?」
アカネの手には、毎日やっていた授業のメニューが細かく記された紙がある。当然、俺が用意した。"自己空間"を使ってまで。
「ああ。アカネのクラスだが、教える事に関してはそれが今のこいつらには合ってるから。あ、そこに書かれてる自由の時間はアカネの好きにしていいからな」
「おっけー。なら手合わせね。1対1である程度の強さは確かめられたから次は2対1とかかしらね」
おっかねぇ……。あいつはどうしてそんな手合わせしまくるかね。戦闘狂みたいだぞ。
「あの、シン先生。それでは、精霊術と二刀は……」
「あぁ、悪いなヘレン。1週間だけ待っててくれ」
「分かりました。セリーヌと一緒に自主練習してますね」
それはありがたい。次教える時が楽しみだな。
そんな事でハナ専属になってから3日が経った。"自己空間"も多用しているため、体感的には3日ではないが。
『シン!大変!騎士団が攻めてきた!』
アカネのそんな緊急の連絡で目を覚ました。まだ夜中。テラミスの前にかなりの数の兵がいるらしい。
「ちっ……。アカネ!アカネは王とヘンリにこの件の関与を聞いてきてくれ!兵は俺がなんとかする!」
『分かったわ!』
黒結石の連絡が途切れる。"転移"でアカネが移動したせいだろう。
「さて、目的は俺か、それとも五和か。どっちにしても、潰してやる」
すぐに"転移・改"を発動し、騎士団のすぐ目の前に移動する。すると、この前俺に突っかかってきた奴が俺が来たのを見て声を上げた。
「お前は、シン!」
「勇者すら付かないのか。ま、いいが。テラミスにそんな武装した集団で何の用だ?」
「今回召喚された者、及び召喚した者の捕縛だ」
五和に、しかもエリも対象になっているようだ。
「理由は?」
「召喚術は国令で制限されている!使用したのだから捕縛は当たり前だ!」
何を言ってるんだこいつは……。
「国令にあるのは制限であり、禁止じゃない。今回はアカネが王と話し、許可を貰っているぞ。何が、誰が召喚されようと、一切の罪には問われないと」
「それは前国王の約束だ!」
「なに?前国王だと?」
「ああ!あの国王には舞台を降りてもらった!騎士団総出でな!」
本来守るべき相手に何してんだこいつら。アホじゃないのか。
「つまり、お前らは国家反逆罪が適用出来るわけだ」
「国家反逆罪?何ぬかしてんだ!んなもんなわけが無いだろう!これは革命だよ!革命!」
「革命だと?」
「あぁ!俺たちがトップ!お前ら異世界人なんて下の下の下の下、つまり奴隷だ!これからはな!」
「そうか」
もう、聞く必要もない。今回は、何一つ手加減はしないでいいようだ。騎士団全員が目の前の奴と同じクソな考えを持っているみたいだからな。