90.王と話した
「シンです。王に呼ばれたんで来たんですが」
城の兵にそう伝えると、すぐに王がいる場所まで連れて行かれた。特に確認とかされなかったが、いいのか?
「久しぶりだな、シン殿」
「そうですね。1ヶ月ぶりですか」
「そうだな。して、悪いが早速本題に入らせて貰うぞ。その新しく召喚された異世界人に会わせてくれないだろうか?」
「嫌です」
きっぱりと言い放つ。言った直後、周りの護衛から少し殺気を感じたが、別にそこまで強い訳でもないみたいなので気にしない。
「アカネ殿が言った通りか……。何故か聞いてもいいか?」
「ええ。召喚されたのは私の妹、つまり家族です。王様、貴方に会わせれば面倒事が妹に向くかもしれない。そういった事は事前に避けるべきだと私は思いますので」
家族を厄介事から守るのは当然の事だろう。
「いや、特に何かしようと思っていたりする事はないのだが……」
「確証がありません。見てから判断するという事もあり得ます。なら、会わせなければ絶対に面倒事にはならない。一番安全な方法です」
「……そうだな。そうかもしれんな。わかった。会わせてもらう事は諦めよう。何の能力かだけでも聞かせてはもらえぬか?」
能力か……。うーむ。全て突っぱねるよりはある程度妥協して受け入れた方が諦めはいいはずだ。
「利用しないと確約出来ますか?」
「出来る」
「もし、した場合は?」
「私を殺してくれて構わんぞ」
ふむ。なかなか言うじゃないか。
「言質は取りましたからね。録音もしました。言い逃れは出来ませんよ?」
「いいだろう」
「では、妹の能力は"物質生成"の能力です」
「ふむ……。"物質生成"か。効力の方は?」
「まだ試していないので分かりませんね」
あそこにいる日本人全員が揃ってからやるつもりだったからな。
「なるほど。わかった。シン殿、アカネ殿には済まなかったと伝えておいてくれぬか?」
「わかりました。それでは」
王がいた部屋を出て直ぐに城から出て行く。あのアカネが絶対面倒な事をすると評価しているからな。長い時間一緒に居たくない。
「で?これは王の差し金って事でいいのか?」
城の前に沢山の兵がおり、俺に向けて武器を構えていた。俺の家族だって事はアカネが言ったから俺を人質にでもして会うつもりか?だが、そんな事をすれば五和を利用する気満々という事が俺にわかり、さっきの宣言通り王を殺す事が出来る訳だが……。
「これ、王の差し金じゃないな?独断だろ。王は命をかけて俺に誓ったぞ?妹を利用しないと。ただの兵のお前達がこの態度だと王は利用する気満々だととられ、俺に殺されても文句は言えない。それが分かっててこの行動か?」
兵は誰も答えない。長い沈黙が場を支配する。
「まあ、答えないなら別にいいさ。お前達を蹴散らして王の首を取りに行くだけだ」
「王に手出しはさせん!」
「お前達の行動が王の首を取ることに繋がるんだぞ?何馬鹿な事言ってんだ?いや、馬鹿だからこの行動に出てるのか」
余程の馬鹿でない限りこんな事はしない。
「貴様、無事でいられると思うな!」
「勇者に対してお前達が勝てると思ってる方が大間違いだ」
城に来る前から魔法使いには変身済みだ。こんな雑兵すぐに片付く。
「そこまでだ!」
大きな声で今にも戦闘に入りそうな俺たちを止めたのは王だった。