8.策を練る2
その後も色々と策を練りながら親代わりの人が到着するのを待った。
念話を送ってから時計で丁度一時間が経ったのを確認したところで結界に反応があった。どうやら着いたようだな。
「着いたみたいだ。俺だけだと変な誤解が出来るかもだからヘレンも来てくれ」
「わかりました。というかもう結界復元してあるんですか……」
そりゃあまあ安全でいたいからな。結界張ってないと果物狙われもするし。
反応があった方に行ってみればちゃんと人がいた。ヘレンと同じようなメイド服を着ている。
「オープン」
結界の一部を解除して中に招き入れる。中に入ったら結界を元に戻す。
「あんたがシンさんかい。私はアンジェリカ。適当に呼んでくれて構わないよ」
アンジェリカさんは紅目金髪ロングと綺麗な顔立ちをしていた。
「どうも、アンジェリカさん。シンです。今回はお呼び立てして申し訳ありません」
「そんなかしこまらないでおくれ。それに問題はエリ様にあるんだろう?だったらこっちが謝るべきさ」
「まあそうなんですけどね。俺は召喚された事に不満はないんで、あの子を責めるようなことはしないであげてください」
親代わりなら怒るんじゃないかと思って一応言っておいた。俺は召喚されて嬉しかった。変身なんて面白い能力もあるし、異世界だ。日本に帰る方法は探すが行き来できたらと思っている。
「シンさんにそう言われちゃあしょうがないね……。それで、エリ様はどこだい?ヘレンは隣にいるようだけど」
「あー、あそこですね。ヘレン連れてっておいてくれ」
「わかりました」
アンジェリカさんの案内をヘレンに任せ、俺はお茶の準備をする。お茶は備え付けの中にあったものだ。ハウスが便利すぎる。
りんご、梨を食べやすい大きさに切る。ま、こんなもんだろ。
人数分のお茶とりんご、梨を持って全員がいる果樹まで行く。
「ほれ、お茶と果物だ。アンジェリカさんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうねぇ」
「あ、ありがとう!」
「さて、アンジェリカさん現状をどこまで把握してます?」
「だいたい分かってるよ。さっきヘレンから聞いたからね」
ふむ。それは話が進めやすくてありがたいな。
「それじゃあ、どうすればいいと思う?」
「そうだね、脅すのは国との関係が悪くなるだろうからお勧めは出来ないね。まあ、今の所はそれしか案が無さそうだけどさ。
そして、物品提供は多分、無理なんじゃないかね。勇者様が関わっている以上、物で解決って事は無いはずだからね」
俺たちが考えていた方法はダメだったわけか。
「そして、一番ありそうな話が土地と権利の剥奪、エリ様の引き入れだろうさ」
土地と権利?なに、黒ローブってそんな偉い立場だったわけ?
「こいつってそんな偉い立場だったのか?」
黒ローブの頭に手を乗せながら聞いてみる。
「偉い立場ですよ。じゃないと様付けで呼んだり、メイドがいたりしません。私達が住んでいるエルグランドの領主家ですし」
エルグランドっていうと、あそこか。黒ローブが行くとかエリの名前を出せば便宜を図ってくれるとか言ってたとこ。
「ああ!あの時のエリって黒ローブのことか。いや、にしてもそんな偉い立場にいながらこれってどうなんだ?」
「教育の方は色々と頑張ってはいるんだけどねぇ。お得意の魔法でいつの間にか抜け出したりしてるのさ」
「ふむ。まあつまり土地と権利の剥奪ってのは領主じゃなくなるって事か」
「そういう事だね。そして引き入れってのは監視の名目で才能を王都で振るってもらうって事さ」
まあ魔法使いでありながら召喚術を行使、そして俺を呼び出すくらいだからなぁ。才能は凄いんだろう。
「これ、詰んでないか?」
「私もそう思います……」
「そうだねぇ。残る方法は全てを捨てて逃げるとかくらいだろうね」
「それは嫌!それだけは絶対に嫌だわ!あそこは、お母様の大切な場所なの!」
今まで黙っていた黒ローブが反応した。
「そうか……。よし。出来る限りの事やってみるか」
「何か策が出来たんですか?」
「まあ少しな。あんま期待はしないで欲しいけどな。………俺が犠牲になるしな」
最後の呟きは3人には聞こえないようにボソリと呟いた。