表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/151

86.妹

「けほっけほっ、ちょっと、なにこれ?」


「ん………?んん?」


 白煙がどんどん晴れていく。人の影が咳き込み、言葉を発する。その声に、ひどく聞き覚えがあった。何年も一緒に暮らしていた者の声。しかし、それはあり得ないのではないか、と聞き間違えではないか、と頭では思っている。


「もー!いい加減晴れてよ、これ!私、お兄ちゃん探さないといけないんだから!」


「…………」


 俺は閉口してしまう。今の、今の声は確かにそうだった。聞き間違えなどでは無かった。確実にそうであると確信出来てしまった。だが、だが、何故だ。


「あ、やっと晴れていく。ふぅ……。さーて、お兄ちゃん探しの再開……って、え?何処ここ?」


 たった今召喚された彼女はキョロキョロと周囲を見回す。そして、俺を見つける。


「あっ………。あっ、お、おにい、ちゃん?」


「……ああ」


 目に涙を溜め、たどたどしく確認してくる彼女に、俺は頷く。そして、周りは全員驚く。


「お兄ちゃん!」


「ぐっ……。痛いっての……。大丈夫だ、安心しろ。ほら、泣くなって。五和いつわ、顔上げろ」


「なに?」


「俺はこの通りちゃんと生きてる。お前の目の前にな。だから泣き止め。な?」


「うん……わかった」


 はぁ……。マジでか……。エリの方を睨むとビクッとしてそっと目を逸らしている。


「お兄ちゃん、やっと見つけたよ!早く帰ろ?お父さんは、ちょっと微妙だし、お母さんは、うん、いなくてもいいんじゃない?って感じだった気もするけど、とりあえず、家に帰ろ?」


 家族の俺への扱いにちょっと悲しみを覚えつつ、状況確認を行う。


「あー、その、な。五和。今の状況が理解出来てるか?」


「え?私がお兄ちゃんを探してたら急に足下が光って、いきなり煙が上がって、収まったら知らない場所にいたけど、お兄ちゃんがいた、これであってるよね?」


「うん、多分、合ってる。でもな?よく考えようか。いきなり知らない場所にいたってどうやってだと思う?」


「え?」


 あー、五和はその手のやつを読んだりしてなかったっけ?


「もしかして、転移、みたいな?でもでも、お兄ちゃん!これ現実だよ?」


「あ、ちゃんとわかってるみたいで良かったよ。これは現実。現実で、実際に起こってること。転移もな。いいな?」


「まあお兄ちゃんが言うならそうなんだよね!うん、信じるよ!」


「ならいいんだ。で、転移してきた訳だけど、どうやって家に帰る?」


「あ……。そっか、帰るにしてももう一回転移しないといけないんだね」


 うんうん、ちゃんと分かってるようでなによりだ。


「えっと……その、そろそろいいかしら?」


 と、ここでアカネが口を開いた。五和はここで初めて他の人がこの場にいるとわかり、俺にさらに抱き着いてくる。感触がヤバイのでぜひ離れて欲しいところだ。


「な、なんだ?」


「知り合い、のようだけど、どちら様?お兄ちゃん、とか呼ばれていたみたいだけど……」


 みんながうんうんと頭を縦に揺らし、問い詰めてくる。特にヘレンが怖い。目が凄い。


「えっと、こいつは五和。俺の妹だ。俺に対してかなりの謎の親愛を持っているみたいだが、どうも離れてからそれが深まったみたいだ。以上、説明終了」


「妹がお兄ちゃんを好きになるのは普通じゃない?」


「世間一般では妹は兄の事をそこまで好きじゃないみたいだぞ。妹なんかいらないって兄が思うくらいだそうだ」


「多分、それは接し方が悪いんだよ〜。私とお兄ちゃんはそんな事ないもんっ!」


 ……。俺、特に五和に何かしてあげた事なかった気がするんだよなぁ。接し方って言われてもよく分かんないんだが。


「そ、それでは家族、ということでいいんですか?」


 ヘレンが五和の事を凝視しながら確認を取ってくる。怖いから。


「あ、ああ。なんて、偶然だ、奇跡だって思うんだが、まず、言わないといけない事がある」


 この時点で誰に何を言うのか分かったのかビクッとしたのが1名。


「おい、エリ。これはどういう事だ?」


 あの紙に描かれた魔法陣は確かに対象に人は無しと書かれていた。それなのに、今、ここに五和がいる。それはおかしい。


「そ、その……魔力、込める時に失敗しまして……」


「それで?」


「ど、どうも、描いたのとは反対の結果をもたらすようになっちゃったみたいで……」


 反対の結果、つまり対象に人は無しだったのが、対象に人有り、になったと?


「アカネ、あり得るのか?」


「……魔力を逆に込めれば可能よ。まさか、そんな初歩的なミスをするとは思わなかったけど……」


 やっぱりミスじゃねぇか……。


「おい、どうしてくれるんだ?」


「そ、その……あの、えっと……」


 エリが何とか言葉を探しているようだが、俺はそう簡単に許すつもりはない。


「お兄ちゃん、その人を責めないであげてほしいな?」


「は?」


「え?」


 五和がいきなりエリの事を庇い始めた。これには俺とエリも困惑して情けない声を出す。


「だって、話の流れ的にそこ人が私をここに転移させてくれた人なんでしょ?」


「あ、ああ。そうだけど」


「なら私にとってはその人は恩人なの!私とお兄ちゃんを再び会わせてくれた恩人!そんな人を責めないであげてほしいな?」


「………。はぁ……。分かったよ……。この件は不問にしてやる。エリ、お前もう二度と召喚術やるなよ。それで許してやる」


「いいん、ですか?」


「……本当なら、こんな事じゃ許さない。けど、当事者の五和が責めるなって言うんだ。今回だけは許す」


「ありがとう、ございます、五和さん。すみませんでした、シン先生」


「はいよ」


 はぁ……。どうすんだ、これ。五和、どうしよう……。責任は確か、全部アカネが取るんだったか。どうなんだろ………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ