76.精霊の剣
俺が闘技場から外に出ると沢山の女性が出待ちをしていた。
「シン様ですよね!さ、サイン下さい!」
「握手して下さい!」
「ぜ、ぜひ一回だけでいいので、お茶を!」
えーっと、何これ?何なんだこれ?全く理解が出来ないんだが……。
「あー、やっぱり。こうなると思った」
「まあ小僧だからな」
近くにエリとクーの声が聞こえたが、女性が多すぎて何処にいるのか見当たらない。それにヘレンも何処にいるのかわからない。
「あー、えっと、すまんが、道開けてくれないか?」
「「「「「「はい!」」」」」」
俺が一言そう言うと女性達は皆一斉に左右に分かれていく。モーゼみたいだ。そしてその中で動かない少数がいた。エリとクー、そしてヘレンだ。
「お、いたいた。済まないな、ヘレン。待たせただろ?」
「いえ、そこまで待ってないので大丈夫ですが、その……」
ん?なんだ?
「優勝、おめでとうございます……。ビックリしました。カッコよかったです、その、何時もよりもずっと」
「ありがとよ。ヘレンが楽しんでくれたなら俺は嬉しいからさ」
「小僧、早めにここを立ち去る事を勧めるぞ。今はこの女性らがいるから来ていないが、取材をする者が来るだろう。そうなると二人の時間がなくなるからの」
「ん、そうか。ならさっさと行かないとな。ありがとよ、クー。そんじゃ行くか、ヘレン」
「はい!」
「優しいんだねー、クーって」
「別に、小僧には優しくしていない。ヘレンの事を思って言ってやっただけだ」
「そーだねー。で、その結果、私達がこうなるんだよね……」
「しょうがないだろう……」
エリとクーの二人は集まっていた女性と取材に来た人達に囲まれていた。女性側からはさっきシンと共に行ったのは誰なのかなど。取材側からは今回の大会はどうだったかなどの感想を。
上から魔法で逃げる事も出来なくはないが、そうすると、シンとヘレンの方へとこの集団が向かうだろうと逃げられない状況だった。
「そんじゃあ次は何処行くよ?」
「その、武器屋を見に行ってもいいですか?武闘大会を見たからかちょっと気になってしまって……」
「別にいいぞ。見に行こうぜ。俺っていつも変身頼りだから武器屋とか見た事無かったし、良い機会だ」
「ありがとうございます!」
そうして武器屋に向かった。一応、俺にはヘレン以外には分からないように認識阻害の効果がある魔法をかけている。俺が堂々と歩いてたらどうせ誰か寄ってくるだろうという判断だ。
「まさか、こんな事になってるとはなぁ……」
「武闘大会の影響力ってやっぱり凄いですね……」
武器屋には既に俺の名前がデカデカと掲げてあり、その使った武器と同じ種類の物を特価として販売していた。ちなみに俺が使ったのは刀、剣、杖だ。
「他のと比べても遜色無いくらいにいい剣なのにここまで安くなるなんて……」
普通なら金貨10枚くらいとれるだろう名剣が金貨1枚になっていたりするのだ。こんな事ならもっと沢山武器を使えば良かったと後悔する。
「こ、これって……」
ん?なんかヘレンが見つけたみたいだな。んー、なんか見た事あるようなないような、そんな剣だった。何だっけなと頭をひねっていると店主が声をかけてきた。俺ではなくヘレンに。ちゃんと認識阻害が効いてるようでなによりだ。
「お、嬢ちゃん、良い武器に目を付けたねぇ。こいつはフェアリーブレード。精霊が宿っているのさ」
ああ!そうだ、カズキの剣に似ているんだ!だから見た事ある感じがしたのか。にしても精霊かぁ。俺自身、精霊になれるんだよなぁ。
「精霊、ですか!?そんな神秘的な物がここにあったんですか!?」
「おう!まあ神秘的な分値段も高くなるから使い手がいなくってよ。ずっとここに閉まってあったんだがな。それが、武闘大会で優勝したシン様が剣を使ったからな。特価で出せば誰かが目に付けてくれるんじゃないかって期待してたのよ」
なるほど。そんな理由が。
「そ、それでお値段はおいくら程ですか!?」
ヘレンはだいぶ興奮してるなぁ。精霊の剣ってそこまで驚くような事なのか。……今度、造ってみようか。
「そうだね、特価といってもそれは精霊が宿っている剣だ。妥当なところで金貨700枚って所だろうね」
「うぅ………。私にはそこまでのお金はありません……」
ふむ。金貨700枚でいいのか。というか、精霊の剣がそれ程高いとは……。俺、剣職人になれば遊んで暮らせそうな気がする。
「金貨700枚、これでいいか?」
「うぇ!?ま、マジもんの金貨ですかい?」
「ああ。調べてもいいぞ。商売をしてるから魔法は使えるだろう?」
「ええ、まあ。ならちょいと、"リアライズ"おお、すげぇ。本物だ。全部本物の金貨だ!それが700枚!」
店主が狂喜乱舞してる。まあ金貨700枚なんてなかなかお目にかかれないだろうしな。
「い、いいんですか?そんな」
「いいんだよ。ヘレンが気に入ったんなら買ってやるのが務めだしな」
優勝して手に入れたから元々なかった金だ。ならそれは全部ヘレンの為に使ってやろうじゃないか。
「ありがとう、ございます!」
ヘレンが剣を腕の中に抱き締めながら笑顔で礼を告げてくる。うん、笑顔が一番だな。