74.決勝戦④
「準備完了だ」
アカネが時間を稼いでくれたおかげですぐに終わった。
「アカネ、さっきも言ったけどこれやったら俺使い物にならなくなるから、後の事よろしく」
「わかってるわよ。抑えてるんだから早くして」
「はいよ。"全て無に帰す無情の世界"」
使った瞬間に体が重くなった。あぁ久しぶりだよ。この感覚。最近は魔法で強化してたからな。範囲はステージ上のみ。だから観客や司会に効果は出ない。
「これって……まさか……」
「えっ……?」
この魔法は効果範囲内を全て地球と同じ環境、状況、状態にする。この効果内で使用出来る魔法はない。使用されてる魔法も全て消える。身体能力すら地球基準になる。全てが地球と同じになる魔法だ。
「俺って素だと運動神経そこまでよくないんだよ。変身能力による力と魔法のおかげであそこまで出来てるんだ。だからこの状態になれば役に立たなくなる」
"重力球"が消える。罠が消える。魔力すら、消える。
「さて、ハナ。ここではお前の身体能力は見た目的なものだ。魔法すら使えない。計画破綻だな?」
「………」
「あんた、この魔法封印しなさい。この後でだけど」
「わかってるさ。これ使用する時俺を起点として発動するから俺は絶対に地球基準になる。使う度に俺が地球基準になるような面倒な事したくないから」
もう地球とは縁を切ったんだ。こんなの使うの1度きりだ。今回だけの特別だ。
「あー、剣おっもい!」
あ、アカネが剣離した。今だと普通に重いからな。なんのチートも無しにいきなり剣持つとか辛いだけだろうし。
「この状況、私も弱くなってるじゃないの」
「だから聞いたんじゃないか。日本にいた時どの程度動けたかって」
そしたら剣を振れるくらいの力はあるって言ったじゃないか。
「どちらにしろハナも地球基準だ。剣なんていらないだろ」
「そういえばそうね。これなら殴る蹴るくらいしか出来ない」
"憑依"だって潰せる。今ここは魔法の世界じゃない。ただの地球なのだから。
「というわけでハナ、覚悟はいいか?」
「やれるものならやってみたらいいじゃないですか」
許可もいただいたのでアカネGOだ。
「それじゃあちゃっちゃと外に出ちゃてね」
思いっきり拳を振りかぶるアカネ。しかし颯爽と避けるハナ。
「懐かしいですね、地球。でもどの世界だろうと子供というのはすばしっこいものなんですよ?」
「はぁっはぁっ、さっさと捕まりなさいよあんた!」
「運動能力もそこらの運動してない高校生よりは子供の方が遊んでいるから動けますよ」
「なんだと!このっ!」
くぅっ、捕まらない!なんでた!?
「……というより、これ見て観客や司会ってどう思ってるのかしら」
「あ、そこは大丈夫だ。外からは壮絶な戦いをしてるように見えるから」
普通に見たら遊んでるように見えるからなこれ。本人達はいたって真面目だけど。
それから10分後。ようやくハナを捕まえられた。三人皆疲労困憊である。
「はぁっやっと捕まえた、わよ」
「は、離して、ください!」
ジタバタとアカネの腕の中で暴れるハナ。引き剥がされないように力を入れつつステージ端に行くアカネ。
「これであなたの負けよ。ハナ」
「うぅ……。こんな惨めな敗北初めてですよ……」
アカネがそっとステージ外にハナを下ろす。これでハナは魔法が使えるが、魔法でこちらには干渉出来ないから危険はない。
「さ、シン。決着をーーえっ?」
「悪いな、優勝するのは俺だ」
アカネの背中を押す。ステージ端にいた事もあり、それだけでアカネはステージ外に出てしまう。
「さて、魔法も解除してっと」
"全て無に帰す無情の世界"は消すだけなら範囲内にいても行える。それを今消した事でやっと俺はあの重苦しい感覚から解放された。
「今回の武闘大会、優勝はシン選手だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
司会のコールとともに観客から歓声が湧き上がる。ヘレンがいる所を見ても笑顔で喜んでくれていた。よかったよかった。