72.決勝戦②
「手伝いに来たぞ」
アカネに声をかけると一瞥してすぐに正面、ハナの方を向いた。
「マリはどうしたのよ」
「結界でこっちとマリの方を隔ててる。"反射結界"だから魔法や鞭じゃ壊れないからな」
「そ。なら魔法使いになりなさい。どうせ魔法使いで何とかするつもりだったんでしょ?あの影を何とかして」
「はいはい、了解」
すぐに魔法使いに変身し、光魔法の"ライト"を使用する。光に照らされ、影が濃くなるが、それは"ライト"が一つの場合だ。無数の"ライト"を上空に浮かべれば影は分散し、薄くなる。
「シンさんは本当、厄介ですね!」
「うおっ!?」
これに対してハナは俺に重力負荷を掛けてきた。今まで罠でしか重力を使ってなかったから罠だけだと油断した!
「"魔法消去"」
だが、掛けられたなら無くせばいい。ハナが俺に一瞬でも構ったならその一瞬でアカネの剣が届く。
「シンさんが来るのがもう少し早かったら届いたかもしれませんね」
アカネの剣は黒くて丸い何かに止められた。それだけではなく、剣とアカネ自身に重力負荷が掛かっていた。
「あんた、それって……」
「はい、ご想像の通り重力の球、"重力球"ですよ。影を相手にしている間に用意させてもらいました」
「あ、これには触れない方がいいですよ?触れたら何であろうと重力の影響が出ちゃいますから」
アカネと剣の重力負荷を解除してやりつつ、"重力球"に関しての情報を速やかに纏めていく。
「あ、シンさん無駄ですよ」
ちっ。背後から魔法をぶつけようとしたら"重力球"が割って入ってきた。自動防御付きか……。
「随分と面倒なものを用意してくれたみたいじゃないか」
「はい。対策は必要だと思ってましたから」
二人で挑める舞台を作ったのも目的を果たせるからってか。
「……あれ何とか出来るか?」
「……出来なくはないけど、本当に奥の手を使わないといけないから遠慮したいところね……」
アカネの奥の手か……。こいつは最強の勇者。見せびらかしていいものじゃないか。
「日本にいた時のお前はどの程度動ける?」
「?一般的な女子高生よりは動けるし、剣も振れるくらい力はあるはずだけど……。何する気?」
「ちょっと、奥の手の一つって所かね。因みに使うと俺は戦力にならなくなる」
「つまり私があの子を止めろって事ね」
「ああ。だけど、そこまで苦労はしないはずだ。そんじゃ、これ発動まで時間かかるんで時間稼ぎよろしく」
「了解、任されたわ」
さてと、使う以上はまず状況を理解してないマリには退場してもらわないとな。じゃないと俺がマリに負けちまう。
「マリ、済まないが御退場願おうか」
"反射結界"で隔てているマリは何もしてこないが、そうはなるものかという強い眼をしている。
「ま、次はこの結界の攻略法を考えておけ」
ステージに手をつき、魔法を発動させる。座標はマリの下。ポーンと、マリが上空に飛ぶ。俺は土魔法でバネのような反発力のあるものを作りマリを打ち上げたのだ。マリの着地点はステージの外。風魔法でマリを地面ギリギリで止め、そのまま静かに下ろす。
「今みたいに下からなら魔法は通る。そういう魔法も覚えておけば戦闘の幅が広がるぞ」
さて、マリの相手はこれで終わりだ。アカネが時間を稼いでいる間に魔法の構築に入らないとな。