6.理由
メイドをベットに寝かせ、壊された結界を張り直した。前回のものは簡単に破られてしまったので、今回はかなりの力を込めてある。
「んぅ……ん、あ、あう?」
ん、どうやら目が覚めたようだな。
「大丈夫か?」
「あ………。すみませんでした。急に倒れてしまって。大丈夫です」
「大丈夫なら別にいいんだ。俺はシンだ。お前は?」
「私はヘレンです。先程はすみませんでした。いきなり襲いかかってしまって……」
「いや、それはこっちにも非がある。変身を解いてから行けばよかったのにそのままで行っちまったからな」
「あの、エリ様はどこにいらっしゃいますか?それと、ここは?」
「エリ?……ああ、あの黒ローブか。あいつは……ほらあそこにいるぞ。それとここは俺の家だな」
窓から外の様子が見え、そこに黒ローブがいたので指さして教えてやる。
「そうですか……。あの、エリ様をあまり1人にしない方がいいですよ。あの人は1人だと絶対に何かやらかします」
そうヘレンが言った途端、ドゴォン!と大きな音がした。
「ほら………」
慌てて外に出てみると3つある木の中の柿の木が見事に倒れていた。音はこの木が倒れた音だったのか……。
「いったい何したんだ?」
俺が黒ローブに問いかけるとビクッと肩を震わせながらゆるゆるとこちらに振り向く。
「そ、その、ですね。なんと言いますか、あの、食べてみたかったんですが……手が届かなくて、そのちょっと、魔法を……」
はぁ………。どうやったら魔法で取ろうとしてこんな光景が出来上がるんだ……。実がなっている高さは俺が取りやすい高さで、黒ローブは背が小さいためか背伸びしても届かなかったのか。
「ほら、少し離れてろ」
黒ローブを木の近くから遠ざけて、ドライアドに変身する。種を作り出し、成長促進で木を生やす。柿を取って黒ローブに渡し、どうせだからと新しい種を作り出しては植え、成長促進をさせていく。
今回はバナナ、ブドウ、スイカを作ってみた。
「ほら、今回のはお前に取りやすい高さに調整した。好きなの食っていいから魔法は使うなよ」
「は、はい。ごめんなさい!」
ふぅ。これでいいだろ。さて、ヘレンに聞きたいことがあるから早くしないとな
「ヘレン、なんでいきなり俺に襲いかかってきたんだ?」
「シンさんはエリ様に召喚されたんですよね?」
「ん?知らね。目が覚めたらここにいて、近くに黒ローブが居ただけだし。黒ローブがそう言うんならそうなんじゃないか?」
「そうですか……。私がシンさんに斬りかかったのは召喚術で呼び出されたものを消し去るためです」
「消し去るため?どういうことだ?」
「私達のこの世界は魔王が世界征服を企てたり、龍王が世界征服を企てたり、邪神が世界征服を企てたりと、いろんな者が世界征服をしようとしていたんですよ」
なんじゃそりゃ。恐ろしいな。そんな世の中俺嫌いだぞ。
「で、それぞれの問題解決のために国の上役が他の世界、いわゆる異世界から救国の英雄を呼ぶ事になったんです」
「俺みたいな学生とか?」
「どうも無差別に呼んでいたそうですよ。そのせいでお爺さんやお婆さんまで呼ばれていたそうです」
うっわぁ………。それはないわ。そんな人達が来てもさすがに無理だろう。まず動くのがやっとだろうし。
「そんなわけで色々な人が呼ばれたらしいんですが、そのうちの1人、勇者様が魔王を討伐、龍王を説得、邪神を封印という快挙を成し遂げたんです」
そいつすげぇな!?いったいどんなやつなんだよ!?
「そこからは平和な世界だったんですが、国は異世界人を呼ぶ事をやめなかったんです」
「目的は達成されたのにか?」
「はい。異世界人が持っている技術力、知識を得ようとしたみたいで」
あー、なるほど小説でよくあるようなやつだな。魔法があるから機械とかの方面に行かなかったってわけか。
「その事態を知った勇者様が国に乗り込み、今すぐ召喚術を行使するのをやめろ!と言ったんですよ」
ふむふむ。正義感が強いやつなんだな、その勇者君は。
「勇者様に逆らうのはまずいということで召喚術は緊急時以外禁止、国が使うなと国令を出したんです」
「ん?だとすると俺を召喚したっていうあの黒ローブやばいんじゃないのか?」
「はい……。ですので、証拠隠滅を図ってしまおうと斬りかかったわけなんです……」
なるほど。そういう事だったのか。
「最初はなんで結界があるのかと疑問に思いながらも、出てきたのがワーウルフだったので、人じゃなくてよかったと思っていたんですが……」
「俺だったわけだ。しかも変身という希少能力持ちの」
「はい………」
さて、この件どうするか。俺は死ぬなんて勿論嫌だが、かといって黒ローブを見捨てるのも違うような気がする。あんな小さな子を見捨てるのはなぁ……。あのちびっ子体型でもしかしたら大人って事もあるかもだが、行動がなぁ。大人な感じには思えない。
「なあ、その召喚術ってのは使用したら国にバレたりするのか?」
「確か、国に召喚術専用感知魔法機があったはずです。勇者様が考案して、国と勇者様が保持しているはずです」
つまり、バレてるってわけだ。
「緊急時以外禁止って事は緊急時ならいいんだろ?今は緊急時か?それなら何とかなるが」
「緊急時だったなら私が斬りかかりませんよ」
「それもそうか……。なら、緊急時だったと偽る事は出来ないか?」
「それは……多分厳しいと思います。他の事については幾らでも言い訳なり嘘がつけたりするんですが……。召喚術に関しては、その、勇者様が関わっているので……」
「嘘をつけない、もしくはついても見破られるって事か……」
それは困ったな……。うーん、どうすればいいんだろうか……。