64.3回戦
俺の番が来たので舞台に上がる。すると観客から、わぁぁぁっと歓声が聞こえてきた。なんでだ?
「これはこれは、シン選手の人気は凄いですね!流石は勇者です!今回の武闘大会の優勝候補とも言われております」
勇者だからか。アカネが色々隠したのはこういう理由か。今度銀プレート貰ってこようかな。
「そのシン選手ですが、なんと先程戦っていたヒカリ選手が通っているテラミス魔法学院の教師を勤めています!新しく入った教師というのはシン選手の事だったようですね!」
そうですね。まあ学院に入っても俺の授業が受けられるのはアカネが集めてきた子達だけなんだが。
「バトルロワイアルでは木で出来た刀と呼ばれる武器を用いて他の選手の武器を壊していたとの情報が入っています。勇者は様々な能力を持っていると言われていますが、シン選手の能力は何なのでしょう!見れるか分かりませんが、楽しみですね!」
刀はもう使いませんよ。今回使うのは剣聖ですから。聖剣士や聖騎士と違って剣の腕が一つ飛び抜けているからだ。それに魔法も使える。
「続いて、ノーティス選手です!」
司会に呼ばれ、ゆっくりと歩いてステージに向かってくる剣士。その両手には漆黒の禍々しい剣が握られ、その剣から凄まじいプレッシャーが襲いかかってきている。
「やっぱ、推測通りか……」
このプレッシャーを受けて、確信に変わった。
「ノーティス選手も情報が少なく、あまり紹介が出来ませんが、バトルロワイアルではとてつもない剣技で相手を圧倒!勝利を勝ち取りました!相手は勇者ですがどこまで戦えるのか、楽しみですね!」
司会の言葉は完全に頭に入っていなかった。ただ、あの剣をどうにかすることしか考えていない。推測が確信に変わったのだ。どうにかノーティスを救わなければならない。
「それでは、第3回戦、シン選手対ノーティス選手、始め!」
ノーティスが二刀を構え、"十字切り"を放ってくる。"十字切り"は本来、縦に振った剣をさらに横に振り斬りつける剣技だが、剣を二本構えたノーティスは右手の剣で縦を、左手の剣で横を担当する事で通常の"十字切り"にある間隔を無くしている。
「よっと」
そんな剣技を剣を盾にして受け、逃げられないようにノーティスの腕を掴み、剣を持っていた手でノーティスの剣を掴む。
「"浄化"」
禍々しい黒色をした2本の剣が白銀の綺麗な輝きを取り戻していく。それと共にノーティスからも黒い靄みたいなものが出ていった。
「これで大丈夫か?」
「え?え?あれ?今どういう状況?」
ノーティスがとぼけた様な声を上げる。あー、乗っ取られてて記憶がないのか。
(おい、念話は使えるか?)
(え?えーっと、はい、出来ますけど。どなたですか?)
(今お前の目の前にいるのが俺だ。話を聞かれたくないから念話で状況説明だ。今は武闘大会中。俺とお前が戦っている。お前は剣の精霊が狂乱していてそれに乗っ取られていた。ここまではいいか?)
そう。あの禍々しかったものは精霊が狂乱していたものだ。剣に精霊とはなかなか面白いと思う。
(えっと、はい。まあ何とか。少し思い出してきましたよ)
(なら、戦闘に移るぞ。説明は戦闘しながらしてやる。武闘大会だからな。観客を楽しませる為にも本気で来ていいぞ)
(あ、はい。でも本気でやったらあなた、すぐ負けてしまうかもですね)
(なんだって?っ!?)
2本の剣を自在に操り、果敢に攻めてくる。さっきとは比べ物にならないくらいに強い。これが本来の力って事か。精霊に操られていたからそれ程の力は出せなかったと。なかなか面白いじゃないか。
(あ、そういえば名乗ってなかったですね。僕は橘 和希です。カズキって呼んでください)
(お前、日本人、勇者か!?)
(え、あ、はい。そうですけど。もしかして貴方も日本人なんですか?)
(ああ。俺はシンだ。勇者もやってるが教師をしてる。よろしくな)
(よろしくお願いします。それにしても同じ日本人に会ったこと無かったので良かったです)
なら後でアカネを紹介してやるか。アカネも日本人を把握出来て良いだろうし。というかノーティスって偽名だったか。
剣を払い、魔法を使い、剣技を使用し、徐々にカズキを押していく。
(凄いですね!剣で負けそうになるなんて初めてです)
(ま、俺のはちょっとしたズルをしてるんだがな。で、だ。質問するぞ。お前の剣の精霊は誰に狂乱させられた?)
(ちょっと待って下さいね。………えっと、確か女の子だったような……)
(ハナっていう見た目と中身の年齢が圧倒的に違ってる少女よ)
頭の中にカズキ以外の声が入ってきた。幼い少女のような声だ。
(もしかして、精霊か?)
(正解。私は狂乱してても意識があったから覚えているわ。ハナって自分で言ってた。あの子、相当強いわよ)
ハナ、ね。決まりか。精霊を狂乱させる程の魔法は闇魔法の禁止級しかない。つまり、禁止級を使え、見た目と中身で年齢に差異があるとの事から確実に"憑依"もしているだろう。
(ありがとよ。その情報が欲しかったんだ。ちなみにハナって少女もこの武闘大会に出場してる)
(そうですか……。僕としてはちょっとお返しがしたいんですけど、多分シンがやってくれるんですよね?)
(ああ。次は俺が狙われてるみたいだからな。俺がビシッとやってやるよ)
(なら、ここは負けた方が良さそうですね)
そう念話で伝わってくるとカズキがステージ外に自ら跳んだ。これで俺の勝ちなんだが……。
(良かったのか?)
(ええ。シンがやってくれるなら僕は引いておきます。貴方がいい人だというのは僕達を救ってくれた事から分かってますから)
(そうねー。武闘大会が終わったら後でお礼させてよね)
(はいよ。そんじゃその時に知り合いを紹介するよ)
武闘大会の後に会う約束をしたら、司会のコールがかかった。
「勝者はシン選手!ノーティス選手との熱い剣戟は素晴らしかったですね!それでは第4回戦に移りましょう!第4回戦はエリ選手対オウガ選手です!」