53.服を買います
ヘレン視点です
その日の授業はあまり集中出来ていなかったと思う。だって、マリがいきなりデートの約束を取り付けてしまったのだから。
「マリ!いったいどういう事ですか!」
「私とエリで応援してあげてるだけですわ。あれから一ヶ月何もなしなんて甘過ぎますわ!あの時の勢いはどうしたんですの」
「いや、あれは………」
あの時はマリが変な事言うからそれに吊られて言ってしまっただけで、しかもお酒を飲んでいたから……。
「エリ、ヘレンはどんな服を持ってますの?」
「うーん、確かメイド服以外無かったような……」
メイドがメイド服以外に何を着ろというんでしょうか。
「デートにメイド服はないですわ。ダメですわ。ヘレンは今日は私の家に来なさいな。服を選んで差し上げますから」
「えっ、そんな!?私には家での家事や、特訓が……」
「つべこべ言わずに着いて来なさいな。家事なら先生だってエリだって出来るでしょう。特訓だって1日くらい休んでも大丈夫ですわ」
そんなこんなで、放課後になった途端にマリに無理矢理マリの家まで連れて行かれてしまいました。そんな私達を出迎えてくれたのは美しい女性でした。
「あら、マリ。今日は随分と早いのね」
「お母様、今日はこのヘレンの勝負服を見繕うために早く帰って来ましたの!」
どうやら目の前の美しい女性はマリの母親のようですね。
「あらあら。それは、まあ。お相手はどなたなのかしら?」
「先生ですわ!でも歳はそこまで離れていませんの!」
「ちょっ、マリ!!」
いきなり何て事を言ってくれたのでしょうか。友達の母親に好きな人を知られるというのはとても恥ずかしいです……。
「まあまあ。先生ねぇ。なかなか難しいわよぉ。先生って奥手でこっちからグイグイ行かないと全然手を出してくれないんだもの」
なんでしょうか。この体験談的な語りは。
「私のお父様は元教師なんですわ。今は商会をやっていますけど」
「それで、私はその人の生徒だったのよ」
なんと。体験談的ではなく体験談だったようです。
「あ、あの、本当にグイッて行けば大丈夫なんですか!?」
私としてはここが気になりました。実際に教師を夫にしたその手腕を見習いたいのです。
「ええ。こういう事は女性から寄り添って行かないと好意だと思ってくれないものですからね」
「な、なるほど……」
「それで、服だったわね。服に合わせてアクセサリーも選びましょう。それと、デート当日は来てくれれば髪もセットしてあげるわよ」
「な、な、なんでデートって」
「あら、勝負服なんて着るのはデートとか以外にはないでしょう?」
そ、そう言われてみればそうかもしれません……。
「ささっ、いらっしゃい。マリも手伝ってね」
「そのつもりですわ!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
私はこの親子には勝てないようです……。ですが、とても可愛らしい服などを選んでもらえました。先生とのデート、絶対に成功させたいです。