52.交換条件
クーが学院に編入してから1ヶ月。
特に何事も起こらず実に平穏な日々を過ごしていた。……ヘレンとの関係が少しギクシャクしていた時もあったが。
「今日は授業の前に話がある」
俺の言葉に全員が首を傾げる。
「どうも、この学院の方針なのか臨時クラス入れ替えみたいなものがあるらしい」
「あー、一ヶ月間他のクラスの教師に教わる行事ですわね」
「そうだ。で、これの対象が一人だ。誰に行ってもらおうか悩んだんだが、やっぱ自主的に行ってもらった方が気分もいいだろうから誰か行きたいやついるか?」
俺の問いに誰も手を挙げなかった。
「みんな行ってみたくないのか?」
「そりゃちょっと興味はあるけどなぁ」
「先生の教えより上手いとは思えませんわ」
「ですでーす!」
「向上が見込めない」
「……こっちの方が色々教えてくれる」
「私はその、他のクラスはちょっと……」
「私とエリ様はこのクラスに入るという事でこの学院に編入したので」
「だね」
「私はまだまだこのクラスで全然学んでないのです。別のクラスに行ってもちんぷんかんぷんなのです」
「私は学ぶ事がないからな。それに私が何かしないように手元に置いているのだろう?だったらこの話は私には無理だろう」
と、全員がそれぞれの理由をもって辞退してきてしまった。
「えぇー……。どうすっかなぁ……」
ヘレンの言う通りエリとヘレンはセットでこのクラスにってのがアカネとの約束だったみたいだから無理。クーはダメ、ゼッタイ。ミミはアカネの時もあまり来てなかったから、他のみんなよりレベルが低いから駄目。となると、残るメンバーからなんだが……。
「レン、マリ、シュン、コウタ、スズ、ヒカリ。お前ら6人の中から1人だな。他のメンバーは色々事情があるし。誰かやんないか?」
「なら1つ、条件を飲んでくれたら私が行ってもいいですわよ」
ほう?それはありがたいな。
「どんな条件だ?」
「先生がヘレンとデートですわ!」
「へ!?ちょ、ちょっとマリ!?何言ってるんですか!?」
おお、ここまで狼狽えてるヘレンは初めて見たぞ。それに。
「まあ、デートくらいなら……」
いつもよく働いてくれているし、結婚とかいきなり飛躍するよりよっぽどいいからな。
「!?せ、先生はいいんですか!?」
「ん?まあ断る理由がないしな。ヘレンが嫌だっていうなら断るが」
「い、いえ!その、決して嫌というわけじゃなくて、その、寧ろ嬉しいんですけど、でも、あの、その……」
はははっ。顔が赤くなってるぞ。混乱してるなあ。
「嬉しいってんなら決まりだな。そんじゃ、俺がヘレンとデートするって条件でマリ、お前がクラス入れ替えに行ってくれ」
「わかりましたわー。いやー、面白そうですわね」
ニヤニヤと笑ってヘレンを見つめるマリのその態度にヘレンは顔をさらに赤くさせ、俯いてしまうのだった。