50.夜の語らい
マリとエリのお仕置きを終え、家に寝かせ、冒険者と仲良く話してたレンとミミ、寝ていたヘレンを回収して最後にクーの元へ向かう。クーはこの飲みには参加せずに1人森の中にいる。
「よっ」
「何の用だ」
「別に。人間になって初めての夜だ。何してるのかなってな」
「特に何もしてはいないぞ。ただ、星を見ていただけだ」
「星を?」
「ああ。私は今まで蛇だった。その時にも星をよく見ていた。今、人間になった事でこの星を見て何か変わったのかとな」
自分の中での変化を確かめてたって事か。
「何か変化はあったか?」
「うむ。星が綺麗だ。蛇だった頃は暗い場所は紫色に見えたからな」
人間と蛇での見え方の違いってやつだな。
「内面の変化はどうなんだ?」
「そうだな。人間というのも悪くないと思っているぞ。魔物に襲われ狩る事で人間として生きると決めたが、その決心が強くなった」
「そりゃ良かったよ。魔物に戻りたいとか言われたらどうしようかと思ってた」
「ははっ。魔物としてはもういい。偶に魔法で変わるくらいでな。これからは真っ当に人間として生きてやるさ。"テイム"は頑張って解いてやるがな」
「頑張れよ〜」
創造魔法無しでオリジナルでどうにか魔法を造りだせないと難しいだろうけどな。
「今に見ていろ。すぐに解いて吠え面をかかせてやる」
「おう、楽しみにしてるよ。そだ、俺クーに色々聞きたかった事があるんだよな」
「なんだいったい。今回の件はもう話しただろうに」
「そっちじゃなくて普通に魔物として暮らしてた時の話さ。どんな生活だったとかどうやって魔法を覚えたとかさ」
「なるほど。そういうこと。別に話してやらんこともないが、何か対価でも貰おうか」
「なら、これだ」
パチンッと指で音を鳴らす。
「今、お前にかけてあった"テイム"の制約を一つ解除した。対価としてはこれで十分だろ?」
ちなみに解いたのは『俺への攻撃の禁止』の制約だ。別にこれを解いても他の制約で俺は守られてるから痛くも痒くもない。
「む……。私が自分で全て解くつもりだったのだが……。まあいいか。では話してやる」
それから色んな話を聞いた。どんな魔物と戦ったとか、どんな場所に行ったとか。中でも一番の驚きが俺と同じようにクーを"テイム"した奴がいたことだ。
「へぇー。お前にそんな過去がねぇ」
「驚きか?」
「まあな。人間と魔物なんて基本殺し殺され合うものだからな。俺と同じようにお前を使役する奴がいたなんて面白い話だ」
「小僧と違って人間の姿にはしなかったがな。魔法を教えてくれたのもそいつだ。ある日突然かけられていた"テイム"が消えたからもういないだろうがな」
「会って話してみたかったな。なかなか面白そうなやつだし」
「小僧と違って私への制約も少なかったしな」
「俺の場合はしょうがないだろ。お前に最高クラスの魔法を使えるようにしてあるんだから。封じないと何があるかわからん」
「それもそうだな」
「……なあ、そいつの名前ってなんて言うんだ?」
「確か、ハナ、だったはずだ」
「そっか……。今度、痕跡でも探してやるよ。それで、墓参りにでも行こう」
「む。いいのか?」
「ああ。制約で縛ってる事以外は基本自由にさせるからな。何かしたい事でもあったら言ってくれ。出来る限り叶えてやるから。あ、人間としての常識の範囲内でな」
「わかっているさ。私は今日から人間だからな」
クーが空を見上げるように頭を上げたので、俺もそれに合わせて頭を上げる。
「今夜は、星が綺麗だな」
「ああ」
その後もしばらく星を眺めながら談笑したのであった。