48.シュンと勝負
次はシュンだ。シュンはあんまり話さず、話しても少しだけしか言わないので、どんな考えをしているのか読めない事が多い。
「よ、シュン。楽しいか?」
「楽しい」
楽しんでいるようでなによりだ。にしても、こんな盛り上がってる中で一人でいるってすごいな。
「先生、勝負して」
「は?」
いきなり何言ってんだ?勝負?なんで?
「いつも、ヘレンさんと」
ん?ああ、いつもヘレンとばっか戦ってるから自分ともって事か?
「別にいいが、今じゃないと駄目か?」
「ん。本気で」
こくりと頷き、さらにはさらっと追加要求してきやがった。
「本気って実力を合わせた?」
「違う。正真正銘の方」
うげ……。ガチの方かよ。そんなんでやってもシュンに勝ち目はないと思うんだがなぁ。
「何が目的なんだ?」
「見て盗む」
なるほど。でも、ガチでやったら見えないと思うんだが………。
「はぁ。まあいいか。やるにしても武器は木剣だぞ。それと場所はギルド前でいいか。今はそこまで人通りがあるわけじゃないし」
変身で適当に木剣を作り出して渡す。で、シュンとギルド前に移動したらかなりの人がついてきた。俺たちを囲むように位置取りをして観戦ムードだ。
「勝負内容はどうする?」
「動けなくなるまで」
「はいよ。なら俺はお前が動けなくなるまで、シュンは俺に一太刀入れたら勝ちって事で」
当たるつもりなんて無いからな。ガチでと言われたからには応えてやらねばならない。
「おいおい、そんな勝負成立するのかー?」
外野が色々言ってくるが、まあ見てればすぐ考えを改めるだろ。
「そんじゃ、そっちのタイミングで初めていいぞ」
と、言った瞬間に距離を詰めて来たので、俺は軽く足をかけて転ばせ首横に木剣を当てる。
「ほい。まず1な」
すぐに距離を取って構え直す。シュンもすぐに立ち上がると魔法を使ってきた。
「剣だけに頼らないのはいいが、バレバレだと意味がないぞ」
すぐに背後に回り込み怪我をさせないように木剣を首に当てる。
「2だ」
「っ……」
そしてすぐ離脱。魔法は不発のようだ。俺が早くも2つ取ったことで焦り、詠唱を中断したからだ。
「10ずつ違うやつに変えてってやるよ。大丈夫。わざと弱くなったりはしないからな」
今は御得意の聖剣士で相手をしているが、俺も少し違う事がしたいからな。
「シュッ!」
"スラッシュ"をイメージだけで成功させてきたシュンだが、それだけでは足りない。
「もっと頭を使え。単発だけじゃすぐ避けられるぞ」
地面を這うように進み、"スラッシュ"の下を走り抜ける。そして、木剣で木剣を打ち払い、フェイントを織り交ぜて首に当てる。
「3」
「"暗膜"」
首に当てると同時にシュンが無詠唱で闇魔法の"暗膜"を使用してきた。
"暗膜"は暗い膜を身体に覆わせる魔法だが、あまり使い道がない。だが、今回シュンは"暗膜"を自分ではなく、剣伝いで首に触れている俺に対してかけてきた。すぐに剣を離すが既に遅く、俺の身体に暗い膜が張り付く。
「なるほど。実際の戦闘では使えないだろうが、今回の勝負に限ってならこの手は有効だな」
暗い膜と夜という状態が相まってかなり視界が悪くなっている。
「ま、解除しようと思えばっ、簡単に解除できるっんだがなっ」
シュンの木剣を捌きつつ、解除と下準備を進める。
「っよし。完了だ。んじゃ、こっからさらにきつくするぞ?」
1時間くらいだろうか。そのくらいでようやくシュンは動けなくなった。それまでに俺が首に木剣を当てた回数は251回だ。計算で大体14秒に1回くらいのペースだ。最後の方は酷い事したからな。残像出してたし。
「お疲れさん。ま、最初にしては頑張った方だな。ヘレンなんて最初は300回くらいだったし」
ヘレンともこんな事をした事がある。どうしてもと頼まれたからな。
「次も、してほしい」
「ま、気分が乗ったらな。どうする?まだ飲みに参加するか?」
「無理………」
体力的に限界か……。ま、しゃあないな。と、いうことで家に移動して寝かせる。
「後は、エリとヘレンとマリか……」
シュンとの勝負で1時間もかけてしまったことに少しだけ罪悪感を覚えながら三人の元へ向かう。