42.黒蛇は少女に
「すまないな。戻るためにはこうするしかなくってな」
「な……。なんで貴様が元の体に戻っているのだ!?闇魔法なんて使えなかったはずだぞ!?」
驚きを露わにしている黒蛇。いや、今はもう蛇じゃなくてただの魔法使いの少女だ。
「うん。使えなかったな。さっきまでの状態なら。お前の今の状態、調べてみろよ」
「へ……?全種類の魔法使用可能?しかも王級を越えて禁止魔法まで?え?」
全種類といっても創造魔法は抜きにしたし、俺だけの魔法とかは全部使えないからな。そんなの持たせたらこいつに世界征服されるって。
「それが俺のスペックって事だよ。今のように剣で戦えて、魔法も使えるってわけ。で、その姿だが、俺の力で俺が魔法を使えるようになるために変えたんで戻れないから」
「つまり、私は一生人間の姿になってしまったと?」
「ああ。ま、闇魔法の中にある"魔物化"を使えば一時的に蛇の状態に戻れるだろうけどな」
「な、なんて事だ……。だ、だがこれはチャンスだ!貴様は最大の過ちを犯した!それは私にこの体を与えてしまったことだ!"退廃の風"!」
黒蛇だった少女の手から灰色の風が出現し、俺の方へ向かってくる。この風は触れるだけで対象の存在を削り取る。国から使用を禁じられ、教えるのも禁止された禁止級の魔法。その中の風魔法だ。そんな風が俺に触れるその瞬間、バチンっと音が鳴り灰色の風は消え去った。
「え?なぜだ!?なぜ死なない!」
「そりゃお前、俺が無条件でその体を渡すわけがないだろう?"体変換"を使用する時にもう一つ、魔法を使ったんだよ。今のお前なら分かるだろ?」
「ま、まさか、"テイム"?」
「ビンゴ、正解だ。"テイム"を受けたらどうなるか、わかってるだろう?」
「使われた者に絶対服従で危害を加えられない……」
「そ。で、更にそこに追加で色々と条件を付け加えられる。さっきの"退廃の風"が効かなかったのも"テイム"の影響だ。いくら禁止級でも魔法で作られた制約を無視する事は出来ないからな」
"テイム"は闇魔法中級に属する魔法で、魔物に対して使用するか奴隷に対して使用するのが一般的である。基本、抵抗する事が出来る魔法だが、今回の場合は使用したのがシンであり、さらにその魔法を少女の姿をした自身にかけることで抵抗せずに魔法が通り、同時に使用していた"体変換"のおかげでシン自体には何の制約もかからず、シンが少女に"テイム"を使ったという結果だけが残ったのだ。
「つまり、お前は力を手にしていようと俺を殺せないわけだ。危害を加えることも出来ないから体を入れ替える事も出来ない。残念だったな」
「私をテイムして一体何をする気だ。しかも少女の体にして」
「別に?特に何もしねぇよ。知性ある魔物なんて初めて見たから是非とも仲間というか近くに置いておきたかっただけだ」
「たった、それだけのためにこんな事をしたのか?」
「ああ。元々お前だけは殺すつもりなかったし。というか殺そうと思えば一瞬で片付けられるし」
わざわざ剣を使って"スラッシュ"をしなくても手、足から"スラッシュ"は出せるし、身体強化魔法を重ねがけしているので手刀でも簡単に裂く事が出来たはずだ。
「そんなわけで、よろしくな」
蛇の魔物だった少女を仲間?にした。