41.魔物は簡単に
『みな、あの小僧を殺せ!』
黒蛇がそう言うと、その場にいた魔物全員が一斉に俺を狙い始めた。爪で、牙で、糸で。多種多様な攻め手が俺に近づく中、俺は。
「"自己空間"」
そう口にした。それだけで、俺を中心として魔物の大群と黒蛇、少しだけ木々を巻き込んで何もない黒い空間へ移動した。
『な、なんだここは!?』
突如として場所が変わった事で驚いているようだ。魔物達も俺を襲うのをやめ、呆然と辺りを見回している。
「ここは俺の、俺だけの空間だ。時間軸と空間軸から外れているから、他所からの干渉は何一つ出来ない。完全に外とは切り離された空間って事だよ」
『な……』
この魔法は亜空間を改良して造ったオリジナルだ。創造魔法を試す際、被害を0にするために考案、実行したものである。この中で何をしようと元の場所に何の被害も出ず、この場所にも穴一つ空かない。そんな魔法だ。
「安心してくれ。別に出る方法が無いってわけじゃないさ。俺を殺すか俺が任意で空間を元の場所へ繋げばいいだけだ。簡単だろ?」
『………』
黒蛇は黙り込んで何かを考えるようにしているようだ。ちなみにすぐ近くまで襲ってきていた魔物は聖剣士にすぐ変身して斬り殺してある。
「かかってこないのか?ならこっちから行くぞ」
剣を握り、横に一閃。それだけで、剣を振った横の広さ分の近距離の魔物から遠距離にいた魔物の上と下がズレた。そして血が噴き出る。
『な……。小僧貴様はいったい何者だ!?』
「俺か?俺は異世界から来た勇者って呼ばれてる奴だな」
『勇者……。まさか、あの勇者か!?』
「あの勇者ってのがどの勇者かはまあ多分分かるけど、その勇者じゃないぞ。そいつとは別の勇者だ。勇者って幾らでもいるみたいだぞ?」
『ゆ、勇者が複数だと!?そんな恐ろしい事があってたまるか!』
「って言われてもなぁ……」
と、この会話をしながらもずっと剣を降り続けていたら魔物も後数匹だけとなってしまった。有象無象だったな。
「で?もうあんたと数匹しかいないけど、どうする?」
『私が、私がお前を倒す!』
黒蛇が素早く接近してくる。が、俺からしたらまだまだだ。剣を振るう。これで終わりだと、そう思っていたが。
『ふんっ』
横に振るおうとした剣を見て、黒蛇が大ジャンプ。見事に避けて近づいてきた。
「へぇ。避けたか」
『貴様はずっと横にしか剣を振っていなかった!そして遠距離のものも殺せたのは衝撃波を出していたからだ!それを考えれば上に避けるのは当然の事!』
黒蛇も会話しながらこっちの様子をずっと伺ってたって事か。面白いな。
『そして、これで貴様は終わりだ!"体変換"』
俺と黒蛇の体が紫色の光に包まれる。そして、気付くと俺は俺の体を見上げていた。
ふむ。"体変換"か。確か闇魔法の王級クラスの魔法だったはずだが、黒蛇が使えるとはな……。しかも詠唱無しで。いやー驚いた驚いた。
「ふふふ……。これでこの体は私のものだ!闇魔法の王級なんて一握りのものしか使えない最高クラスの魔法!今日から私がシンだ!」
あー、これどうやら黒蛇の秘策みたいだなぁ。どうしよっかなぁ。
「さてさて、早速外へ……って、どうやって出るんだ!?おい!貴様!何で使っていた魔法が使えないんだ!」
だってそりゃあ今なってたの聖剣士ですし。魔法使いに変身しないと空間魔法なんて使えませんって。
「どうやって……どうやって出ればいいんだ……。まさか、もう一生出られないのか……?」
あ、頭抱えて体操座りしてる。俺の体なんだがなぁ。まあ、蛇の体も楽しんだしそろそろ戻るか。というか蛇の体楽しむなら変身すればいつでも出来るし。
「よっと。これで元に戻ったぞ」
蛇の体でも変身能力は消えていなかったからな。魔法使いに変身して闇魔法の"体変換"を魔法名も詠唱も全部省略して使ったんだ。ま、その結果ーー。
「ふぇ?わ、私が人間になっているぞ!?どうなっているんだ!?」
黒蛇は魔法使いになってしまったんだがな。