40.黒蛇
結界の外に出るとかなり濃い不気味な魔力の存在を感じ取る事が出来る。今回の家に張った結界は本気でやったのでいくら強大な魔力を持った者が攻撃しても壊される事はない。ヘレンは俺の行動を見越して家にしたんだろうな。
「さてさて、鬼が出るか、蛇が出るか」
周りに生徒はいない。相手も魔物だ。少し、本気を出すとするか。森の中で強大な魔力がある場所へ向かう。聖剣士本来のスペックと身体強化系の魔法を重ねがけされた俺にかかれば目的地まで数分とかからなかった。
「こりゃやばいな……」
目的地まで着いて最初に確認出来たのはおびただしい数の魔物達だった。狼や猪、蜘蛛に熊までいる。その一番奥に見えるのが黒い蛇だった。
「鬼が出るか蛇が出るかとか言ったけど、本当に蛇が出るとは思わなかったよ……」
にしてもこの魔物の量、魔物大暴走が起きるぞ。というかだから魔物がなかなか見つからなかったのか。
『……小僧、何者だ?』
ん?なんだこの頭の中に直接響いてくるような声は。周りには特に誰もいないんだが……。
「誰だ?俺に話しかけてるのは」
『私だ。黒蛇だ。もう一度聞くぞ。小僧、何者だ?』
は?黒蛇ってあの一番奥にいるやつか?あいつが話しかけてきたって事か?魔物が話すなんて事あるのか。
「俺はシンだよ。この近くの学院の教師だ」
『シンというのか。私達に何の用だ』
おや?これは話し合いで解決出来るのか?
「今、俺の生徒達とちょっと森に来ていてな。魔物を狩っているんだが、ここまでデカイ魔力を持った奴がいたから不安要素を無くそうと思って来たんだよ」
『ほう。つまり私を排除しようと?』
「最初はそう思ってたんだが、あんたに知性があってこうやって話せているなら話し合いで済ませられるんじゃないかと思ってるよ」
『ふむ。私に何を要求する?』
「あんた含むここにいる魔物達全員が生徒達及び街に危害を加えない事だ」
この魔物量じゃあどうしたって魔物大暴走が起こる。止めるには行動させないように言い含めるしかない。
『無理だな。私達はあの街を襲う為に集まっているのだから』
「何でだ?何か恨みでもあるのか?」
『恨み?恨みだと?そんなものあるわけなかろう』
「じゃあ何で街を襲う」
『この世界は弱肉強食だ。私達が人間を襲うのに理由が必要か?まあ簡単に理由付けをするなら、私達を襲っていて人間は襲われないとでも思っているのか?というところか』
あ、これは相手さんのが正しいわ。魔物に襲われたから殺すのは自衛だけど、冒険者ってのはほとんどがわざわざこちらから探し回って殺してるわけだし。人間が襲われても文句は言えんわ。
「あー、確かに。あんたの言う通りだわ。魔物なんて知性がないこっちを襲ってくる奴らとしか思ってなかったけど、あんたみたいに知性があったりする奴もいたり、魔物の暮らしってのもあるんだな」
『当然だ。私達は無から生まれてくるわけでは無いのだから。それに何かを食べなければ餓死する。当然、家族だっている。その家族をみな殺されているのだ。攻め入るには十分な理由だろう』
「だな。ま、だからといって街に行かせるわけにはいかないんだけどな」
黒蛇の言う事はもっともであるが、こっちにだってそれは適応される。魔物に子供を殺された、恋人を殺されたなんて話があるのだ。魔物を討伐する理由なんてごまんとある。
『ほう?なら私達を止めてみるか?小僧一人で?』
「ああ。止めてやるさ。はぁ……。話し合いで解決出来ればよかったんだがなぁ……」