12.アカネの仕事
「あんなんで本当にいいのか!?」
王に対する雑な対応に疑問を抱く。
「いいのよ。どうせこっちが下手に出たら何でもかんでも言ってくるし。それにあれ、絶対シンの事狙ってくるわよ。貴重な能力だから。あの王、自分に利益が出る事に関してはかなり早く行動に移すから」
「あー、えーっと、つまり?」
「あの王の近くにいたくないってこと。必ずと言っていいほどめんどくさい事になるから」
なるほど。わかりやすい。
「それじゃ、早速王都を出るわよ」
「は?まじで?今さっき着いたばっかだぞ!?」
「私仕事放り出して来たって言ったでしょ。仕事を受けるにあたって一応こういう事があるかもしれないとは伝えてあるけど、それでも早く戻って仕事しないとでしょ」
仕事熱心だなぁ。少し休みでもすればいいのに。
「わかったよ……。で?何処に行くんだ?俺はこの世界の地理を全く知らんから教えてもらうしかないんだが」
「この王都から東に行ったところにあるテラミスという所に行くよ。ちなみに王都から南に行った所がエルグランドね」
エルグランドは南か。俺に暇が出来た時に行くか。
「王都に来る時は歩いて来たけど、今回は走っていくからね。ヘンリがいなければ王都までも走っていけてたから」
……本当、あの人騎士団長なのかね。駄目なところばかり知っていくような気がする。
「走るより速い手段はないのか?」
「うーん、一応あるけど、シンが付いてこれないんだよね」
「付いてこれないって?」
「えっと、転移なんだけど、行ったことある所にワープするんだ。けど、1人でしか転移出来ないからシンを置いていく事になっちゃうんだよね」
なるほど。劣化版ルー○ってところか。まあでもそれなら。
ボフンと白煙が上がり、出てきたのはアカネだ。
「これなら俺も転移が出来るぞ」
「ちょっ、変身って他人にもなれるわけ?変な事したら許さないからね!」
「わかってるよ。というかそんな勇気はない」
もし変な事してみろ。死ぬって。物理的に。なんたって勇者だぞ。俺の力じゃ勝てないってまじで。アカネに変身してても経験の差で負けるから。
「さっさと行こうぜ」
「はいはい。"転移"」
「”転移”」
転移を使った瞬間、体を光が包み宙に浮いた。その後、猛スピードで空を飛び、気がつけば違う街にいた。
「さ、着いたわよって、どうしたの?」
「あんな速く動いて平気なわけがないだろ……」
あんなグネグネと動いて平気な方がおかしいんだ……。うえっ。
「あれは慣れよ。慣れれば大丈夫になるわ」
慣れって……。俺は無理かも……。
「早く行きましょ。私忙しいんだから」
アカネが歩き出してしまったため、後を追いかけながら問う。
「……わかったよ。で、何処だ?」
「ここからでも見えるでしょ?あの大きな時計がある建物。あそこよ」
時計時計っと探して時計らしき物なら見つかったが……数字じゃなくてよくわかんない文字が書いてあるぞ。
「あれか?あの変な字が書かれてるやつ」
「そうそうってあー、そっか。来たばっかしだから字も読めないか。これじゃ手伝いしてもらうより先に勉強からかな……」
「勉強だと………!?」
勉強。俺が一番嫌いなものだぞ、それ。っていうかまさか字が違う!?
「字が違うのか?言葉は通じるのに?」
「言葉の方はなんか翻訳されてるみたいなのよね。字は翻訳されないから覚えないと読めないの」
マジかよ……。こんな事ならヘレンかアンジェリカさんに教えてもらうんだった……。あの2人は真面目だし。エリに教えてもらおうとするときっと一緒になって遊ぶ自信がある。
「で、結局何をやってるんだ?あの建物で」
「教師よ」
教師!?見た目俺と同い年だと思われるアカネが!?
「教えられることなんてあるのか!?」
「これでも一応勇者ですからね。魔王倒したりしたし、そこら辺の知恵とか力の制御とか教えてるのよ」
勇者だから教えられることってわけか。
「ってか俺に教師の補助させようとしてたってことかよ!こっち来たばっかなのに」
「他の人だったらそうはいかないけど、シンなら大丈夫でしょ。変身出来るんだから」
あー。魔法使いに変身すればある程度の魔法の知識とか入るからなぁ。なんとなくでやってるけど。
「つまり、変身使って知識得て、それを教えろと」
「そゆこと。私が頑張って覚えたりした事が一瞬で頭に入るんだから楽勝でしょ」
うーん、そうか?いちいち変身しなくちゃいけないし、なるやつによっては女になるし……。
「ま、いいけどさ。その前に俺は字を覚えるんだろ?勉強は大がつくほど嫌いだが頑張るよ」
「ん、頑張ってよね。シンがいれば色々と役立つんだから」
俺を何に使う気だ、こいつ……。
「着いたわよ。ここがテラミス魔法学院。まあ魔法学院っていっても魔法だけじゃなく武術とか剣術とかも覚えられるけどね」
色々学べる場所ってわけか。なるほどねぇ。
「さ、行くわよ」