122.敵の情報
「お疲れさん」
「ユグシルはちゃんと殺したのね?」
「ああ」
見事エネドラを確保したアカネ達にそう言うと確認してきたので、素直に頷き死体も見せる事でみんな納得した。まあ死体は"黒炎"で酷い事になっていたが。
「にしてもエネドラが紫色の手を使うなんて聞いてないわよ」
「いや、俺も知らなかったし。でもまあよかったじゃないか。無事確保出来たんだから」
「カズキの精霊が"アウロラ"の事を教えてくれなきゃ面倒だったわよ」
「え?あれ、アネラが教えたんですか?」
まあ驚くのも無理はない。教えたのは俺だしな。というかカズキの精霊の名前、アネラだったのか。知らなかった。
「とりあえず、エネドラから情報引き出すぞ」
エネドラの頭に触れる。反撃は特にないが、警戒だけはしておく。
「……まじか。これは面倒な事になりそうだ。というか面倒だ」
「何がわかったの?」
アカネが急かしてくるように聞いてくるので、爆弾を投下してやる事にした。
「こいつら、元日本人だ。つまり、俺たちと同郷。ユグシルもそうだったらしい」
その場にいた全員が息を呑む。魔物と考えて今回、行動に移したが、それは浅はかだったのがわかったのだ。まあ、普通の人間とは見た目がかなり変わっているのだからしょうがないのかもしれないが。
「さらに言うが、エネドラの他にもまだそういう存在がいるらしい。それも全て日本人みたいだぞ」
こんな魔族とでも呼ばれそうな見た目をした者が日本人であり、さらにまだいるという事態に一同混乱状態だ。
「元には戻せないの……?」
「……創造魔法で作れなくはないかもしれないが、やってみないとわからない」
「そう……」
この異世界という世界で日本人を一番救おうとしていたのはアカネだ。そのために魔王を倒したり、王と召喚術についての交渉をしたのだから。
「ただ、一つ。アカネがどれだけ頑張ろうともこいつらは救えなかった。こいつらを召喚したのは、邪神らしいからな」
いくらアカネが王相手に規制をさせても意味がなかった。こいつらを救うには、邪神を殺すしかなかったのだ。だが、ハナが召喚されたのもアカネがこの世界に召喚される前の話。こいつらを救う事が出来た奴は何処にもいないのだ。
「……エネドラ達が私を狙っている理由は、もしかして、それが理由ですか?」
ハナとエネドラ、ユグシルにある共通点。そこから狙われる理由を推測したのだろう。
「ああ。邪神に召喚されたから、だそうだ。どうやら今までも色々捕獲するために動いてたらしいが、"憑依"のおかげで捕まらなかったらしい」
「"憑依"のおかげ、ですか……」
「今回見つかったのは、武闘大会で大きな注目を集めたせいだな。で、ちょうど五和が召喚された事もあり、五和を狙うようにみせてハナを狙ったようだ。騎士団を動かしたりしたのもそういった狙いの他にあわよくば周りの奴を殺せたら、的な考えだったらしい」
ただ、元日本人なのに、日本人を舐めすぎだろう。強力な力を手にするのに、騎士団が敵うはずがない。
「こいつらの目的は邪神の封印を解く事。だが、封印を解くための鍵がない。だからこそ、こいつらは回収しようとした」
「……私が、鍵、なんですか?」
「ああ。どうやら、邪神が一番最後に召喚したのが、ハナ、いや、遠藤 彩音らしい。それでなのか知らんが、こいつらは『ラストキー』なんて呼んでるらしいぞ」
こいつらがハナを様付けして呼んでいた理由もそれだ。ハナがいない限り、邪神の封印を解く事が出来ない。
「なんでエネドラ含めその元日本人は邪神復活に協力しているんですか?元日本人なら創作にある程度触れている人もいるでしょう。邪神なんてラスボス的なものは危険だってわかるはずですが」
「ちょっと待て……。……どうやら、この姿に変えられた時、思考内容も変わっちまうらしい。変わる前と変わった後でだいぶ違っている。変えられちまうと邪神復活を目標にするようになっちまうみたいだな」
カズキの質問に答えるのにだいぶ苦労した。こいつはもう相当前からエネドラとして活動しているようで、遡るのが大変だった。
「どうやら、変えられるのは邪神だけらしい。封印していても何か瘴気的なのが漏れていて、邪神が召喚した日本人がそれに触れるとエネドラのように変わるみたいだな。実験的な感じで他の人間にやってみてる記憶があるが、変化はしてないようだし」
「邪神を封印してる場所って、神殿の地下奥深くよ?警備も厳重にさせてあるはずなのに……」
「……どうも、邪神教団っていうのがあるみたいだな。邪神を崇拝しているようだ。今、警備してる奴は全部そこの回し者だな」
「邪神教団……私も聞いた事がないわ。全員洗い出す必要があるわね」
邪神教団なんて聞いた事ない。そもそも俺は行動範囲が狭すぎたせいだから仕方がない。が、アカネが知らないとなると隠蔽力は相当だろうな。アカネは各地を周っている。それなのに聞いたことがないのだ。よほど徹底されているのだろう。
「さすがに構成員の情報はないみたいだ。こいつらもそこまで細部を把握してるわけじゃないらしい」
そこまで把握していたらよかったんだがな……。まあ無い物ねだりだ。そこはどうにかして突き止めるしかないだろうな。
「まず、敵に俺たちがエネドラ達を倒した事が伝わるのは時間の問題だろう。こいつらがハナを回収出来なかったんだからな。と、すると、気付かれる前に色々と前準備をしといた方がいい」
誰が敵か分からないが、邪神教団の構成員探しに元日本人達の捜索、ハナの安全確保。その他にも色々ある。やる事はたくさんだ。