121.ユグシル戦
さてさて、ユグシルを隔離する事は出来たが、次はどうしようか。作戦は数個あるが、それも相手次第。鏡の世界の時間は外と変わらないからそれ程長く相手をしているつもりはない。
だが、下手な行動をすれば自分が危うくなるのがこの鏡の世界だ。とりあえず、出方を伺おうかね。
「ん〜、これは面倒ですね〜。脱出方法、吐いてもらいましょうか〜」
ユグシルが紫色の手を俺の方へ伸ばしてくる。出し惜しみは無しか。
「"鏡よ鏡"」
ユグシルに聞かれないよう小さく呟く。それだけで、紫色の手は鏡に吸い込まれ、違う鏡からユグシルに向かって紫色の手が伸びる。
だが、紫色の手の操作権はまだユグシルが握っているため、すぐに方向転換し、俺の方へ伸びてくる。
「"鏡よ鏡"」
再度呟く。紫色の手はまた鏡に吸い込まれ、違う鏡からユグシルに向けて伸びる。それをまた方向転換し、こちらに伸ばしてくる。
これが何度も何度も繰り返され、鏡の世界が次第に紫色に染まっていく。ユグシルは紫色の手を引っ込めるつもりは無いようで、このままいけば鏡が無くなり俺に当たると考えているのだろう。鏡の世界と言っても鏡は無限ではない。吸い込む鏡と吐き出す鏡で使えば次第に尽きる。
「まあ、そんな事は発動させてる俺が一番よくわかってる。だからこそ、"鏡光"」
鏡全てが光を放つ。その光は6属性の光。つまり、"アウロラ"だ。シンは"アウロラ"を知っていた。変身能力のおかげで。そのため、今回、作戦に盛り込んだのだ。
「さあ、次のステージだ」
紫色の手が"アウロラ"によって消滅していく。すぐに引っ込めようにも鏡を何重にも通しているため戻らない。さらには自身の存在すら危ういのだ。
一面全てが鏡の世界。その鏡が"アウロラ"を放ったとしたら?答えは決まっている。その世界にいる者は全て消滅だ。
だが、1人、いや、正確には1人と1匹だけは消滅せずに残っている。シンとクーだ。その周りには薄い膜が張られている。
「小僧、そこまで警戒するような相手では無かったぞ。私の出番すら無かった」
「必殺の"アウロラ"出したからなぁ。まあこれが効かなくてもまだまだ手は用意してた訳で」
「ま、だ、だ……」
シンとクー以外の声がまだ"アウロラ"の輝きを放つ世界の中で聞こえてくる。
「ま、だ、おわ、ら、ない、ぞ」
だが、その声に力はなく、言葉も途切れ途切れであり、もう助からないのは明白だった。
「小僧、止めをさせ。瀕死の獣が一番恐ろしい」
「分かってるさ」
いるであろう位置に向かって"黒炎"を飛ばす。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ」
見事命中したようで"鏡光"を解除し、さらに数発撃ち込んでようやく声を上げなくなり、動きも無くなり、死んだのだろうと判断した。
「なんか、こんな簡単に終わるとは思わなかったぞ」
「私もだ。だが、本当によかったのか?殺して」
「まあ情報はユグシルの方が持ってそうだが、こっちは何をするか分からないからな。情報はエネドラでもある程度持ってるだろうし、大丈夫だろ」
"鏡と鏡、全ては繋がる世界の鏡"を解除すると、アカネ達とエネドラはまだ戦闘中であった。
「参戦するか?」
「いや、バレないように見てようぜ。危なくなったら参戦すればいい」
そのまま観戦を続けていた時、エネドラが紫色の手を出したのには驚いた。まさか使えたとは。
「あれの相手はアカネ達には厳しいだろうな。一つ、助言するか」
念話をカズキの精霊に強制的に繋ぐ。
「聞こえるか?」
(聞こえてるわよ!、いきなりなに!?)
繋がってるようで安心した。と言う事であの紫色の手の攻略法を教え、それをアカネに伝えてもらう。
(なんでシンがしないわけ……)
「俺がすると色々面倒な事になるからな」
ある一部の情報からな。
「というわけで頼んだ」
(……後で、セリーヌ様に会わせてくれたら考えるわ)
「セリーヌ?まあきっと頼めば会ってくれるだろうが……。というかセリーヌ様って……」
(会わせてくれるのね。ならやる)
繋いでいた念話は強制的に切断された。その後はどうやらアカネに伝わったらしく作戦を決行。しっかりと"アウロラ"を発動させ、エネドラを確保出来た。
「セリーヌ様、ねぇ」
ヘレンが契約したセリーヌは自身のことを上位の精霊だと言ってたが、様付けされる程なんだな。