117.エネドラ戦①
「どうやら分断は成功したようね」
シンとユグシルの姿が消えてから数分してもユグシルが出て来ないので、そう判断する。
「では、作戦通りに行きましょう」
「了解よ。でも殺さず、だからね」
「分かってますよ」
後ろからハナとカズキが左右に分かれてエネドラに向かっていく。私は聖剣でサポート。聖剣の斬れ味ではエネドラに傷を負わせる事は出来ないが、行動を阻害する事なら出来る。
カズキが精霊術と剣技の合わせ技、精霊剣技を、ハナは重力魔法と闇魔法の複合魔法を使用する。
「"精霊術・暴風一閃"」
「"重力影鎖"」
「むっ」
カズキが放ったものは風の精霊術と剣技の一閃を合わせたもの。通常の一閃とは、速度、範囲、威力が圧倒的に違う。風の精霊術により、速度は増し避ける事は困難、範囲は風の刃により拡大、威力は前の2つにより増大している。
ハナの方は闇魔法の"操影"と重力魔法を合わせたもの。影で相手を捕らえて、その影に重力負荷を掛ける事で動きを拘束する魔法だ。
エネドラは二つとも避ける。だが、聖剣の斬撃のおかげで体勢を崩せ、擦り傷は負わせられた。
「ハナは継続!カズキは2歩下がって!」
二人に指示を出しつつ、聖剣の他に持っていた魔剣による魔法を行使する。カズキの精霊術の都合上、風の魔剣と水の魔剣しか使えない。
「"テンペスト"」
「"模倣・テンペスト"」
魔剣での魔法行使も"模倣"によって打ち消された。これで情報ゲットね。魔剣での魔法も"模倣"される。シンの『創造魔法は模倣されない』って推測の方はまだ確実とは言えないけど、それなりの信憑性になっている。
ハナの重力魔法が"模倣"されないのがいい例だ。"模倣"してしまえばこちらに苦戦を強いる事も出来るはずなのに、して来ない。なら、出来ないと考えても悪くはない。
「さぁて、ここまでは聞いてた通り。次はどう出るかしら?」
敵は数日間、間をあけてきたのだ。何かしら前回とは違う手段を用意しているはずである。
「"強化"」
"強化"ね。部分指定は無し。つまり全要素強化って所かな。単純でいいわね。魔法は相殺か回避、攻撃手段は物理。有難い事だわ。
「カズキ、右回避!」
「分かってます!」
"強化"によってエネドラの動きが速まり、まずこの中で一番攻撃力があると思われたのだろうカズキが狙われた。
カズキ自身も今の所自分が一番に狙われる事を理解していたので、反応が早く、"自己空間"での修行の成果もあり、傷を負う事なくエネドラの攻撃を避けきり、逆に反撃に出た。
「"精霊術・風嵐散華"」
「ぐっ……」
カズキの剣技"散華"に精霊術が合わさった精霊剣技がエネドラの横腹に当たる。
"風嵐散華"は高速で繰り出す4回斬りだ。剣に風を纏わせ、1回斬るごとに嵐のような激しい風が相手に襲いかかり、裂傷を作り出していく。
つまり4回も斬れば直接的なダメージもそうだが、裂傷も激しく、大量に血を流させる事が可能なのだ。
それなりの防御力を持ち、さらに"強化"されたエネドラにもこの精霊剣技は有効だった。エネドラの横腹を深く抉り、大量の血を流す事に成功する。
血が急激に無くなれば動きは悪くなる。そこをハナが逃さず、"重力影鎖"で捕縛する。
影に対しての重力負荷のため、全体に掛ける重力負荷よりも大きく負荷をかける事ができ、エネドラは動く事が出来ないでいた。