116.再戦
現実時間での数日間、俺たちは"自己空間"に引き篭もりそれぞれ特訓していた。内部時間的には1年はいくくらい経過している。
篭っていた間も、少し様子見で外に出ていた時もあちらからの接触は無かった。
「俺の考えだとそれほど時間を空けてくる事はないと思ってたんだが……。違うのか?」
「いえ、私もそう思うわよ。あの時の時点でこっちの戦力は割れてるようなものじゃない。ならこっちが有利になるように時間を空けるなんて事してくるはずないわ」
自分の考えが間違っていたかもしれないと愚痴をこぼすと、アカネが俺の考えに賛同してくれた。
「だとすると、あちらに何かしら動けない理由がある?」
「そうかもしれないわね。あっちも創造魔法を持っているから色々創っているって可能性もあるし」
あいつらがこちらに来ない理由など考えてもキリがない。そんな事よりも今は特訓をするべきだろう。
その時だった。目の前に影が集まりだしたのは。
「っ、みんな、来るぞ!」
"自己空間"内にいるカズキ、ハナ、クーに声をかけ、すぐに外に出てきてもらう。影はだんだんと一つになっていき、その姿を人型へと変えていく。
「小僧、入ってるからな」
クーが俺の影の中に入る。カズキも剣を構え、ハナもいつでも重力魔法を使えるように準備している。アカネは聖剣と聖鎧を取り出して本気モードのようだ。
「いや〜どうもどうも〜」
「ハナ様を迎えに来た」
影がユグシルとエネドラになった。エネドラの腕はしっかりと元に戻っている。何かしらの方法を取ったのだろう。二人それぞれが言葉を発する。
「私は行きませんよ」
エネドラの言葉に反応して返すハナはあちらに行く気はない。行かせる気もない。
「なら、力尽くで連れて行かせてもらおう」
エネドラが行動を開始する。重力負荷の無い今はその行動を制限出来るものは無い。つまり、全力で動けるという訳だ。だが。
「む?」
全員がエネドラの拳を回避する。数日前までは視認出来なかった動き。しかし、今は全員が視認した上でしっかりと回避する事も出来るようになっている。
これも"自己空間"内で特訓した結果だ。なにもずっと各自で特訓していた訳ではない。敵の動きに対応出来なければ意味はないのだ。そのための特訓は全員でしっかりとやった。一方的にやられるような事はない。
「いくぞ!」
掛け声と共にこちらも行動を開始する。まずは分断作業だ。二人まとまっていられると何があるか分からないから。
ハナは周囲一帯に重力魔法を使用し、重力負荷を掛け、カズキは精霊術と剣術を併用し、アカネは聖剣と魔剣を持って縦横無尽に駆け回る。
俺は分断するための準備を開始する。
「面白そうな事してますね〜。見てるのでやってみてください〜」
ユグシルは余裕なのか傍観に徹するらしい。こちらとしてはただただ有難いだけだ。エネドラはハナ、カズキ、アカネで抑えられているので邪魔される事はない。
「さて、ユグシル。一緒に来てもらうぞ。"鏡と鏡、全ては繋がる世界の鏡"」
俺とユグシルだけを対象に発動する。周囲の景色はガラリと変わり、何処を見ても鏡しか存在せず、自分の姿が写って見える世界になった。
「エネドラと分断って訳ですね〜」
「ああ、そうだ」
「でも、これお忘れじゃないですよね〜?」
紫の手がユグシルから伸びる。何もない空中に向かって振り下ろされた手は、空間を引き裂き、空間に穴を開けた。
「これでは閉じ込める事は出来ません〜」
ユグシルが穴に入る。入るが、しかし、この空間から逃れる事は出来ず、鏡の中から出て来てしまう。
「あれ〜?おかしいですね〜」
もう一度穴に入っても、結果は同じ。どうやら対策は完璧のようだ。これで逃げられない。分断成功だ。