109.助けに来た
学院に戻ると、生徒と教師、学院長は避難済みで、カズキとハナが翼のある男と交戦していた。
「ハナ!無事か!」
「なんとか!でもまさか私が狙われるとは思わなかったですよ!」
「俺もだよ!」
目の前の男はあっちに置いてきた男のように翼が生え、肌が黒かった。クーが見たと言っていた二人のうちのもう一人だろう。
「何をしているんだ。失敗しているではないか」
俺がここに来たという事は囮に失敗したということ。
「これは一度退却だな」
「させると思ってるのか?」
「いいや、そうは思わん。だが、出来るさ」
相手の身体が影になる。そして一つ一つ、小さく分かれていく。
「それが手か。だが、それもどうせ魔法なんだろ?」
一緒にいるハナとカズキには悪いが"全て無に帰す無情の世界"を発動させる。それだけで、影は一つに戻り、男の姿を取っていく。完全に戻った所ですぐに解除した。
「なんだと?」
「で?何が出来るんだ?」
魔法であるならば使えなくなればいい。相手にはこの魔法を詳しく知るのは不可能だ。
「何回でも試せよ。何回でも止めてやる」
「止められると分かっていてやる馬鹿もいないだろう。だから、ここはもう一つの方法を取らせてもらうぞ」
「へぇ?」
もう一つの方法ねぇ。いったいどんな事だ?
「全員倒して、目標を回収する」
倒す、ねぇ。
「無理だろ」
「そうでもないぞ」
「がっはっ」
そう言った瞬間に隣のカズキが壁に激突した。それに続いて俺の身体も壁に激突する。
「なっ」
今、何をした?何にも認識出来なかった。
「先程までの身体の重みがない。私が逃げようとした時に消したようだな。だが、それが失敗だったな」
くっ、重力負荷がかかってたのが俺の"全て無に帰す無情の世界"のせいで消えたのか……!
「ハナ!逃げろ!」
「何処へ逃げたって追ってきますよ!だったら戦いますって」
「むっ?」
うっ……こりゃ重力負荷か。かなり強めだ。しかも武道場全体だ。
「ほう、先程の重みがまた来たな。だが、一度使ったものをそう何度も使わない方がいいぞ?」
重力の発生源である"重力球"を影で狙われる。だが、そう簡単には壊れない。
俺もすぐに復帰し色々魔法を放つがどれも有効打には程遠い。自分に効かないと知ってかこちらを無視し、"重力球"だけを狙い続けている。いくら硬いといってもあのまま攻撃され続ければいつか壊れるぞ。
「シンさん、あれ、やります」
「マジか?」
「マジです。カズキの精霊術なら少しは効いてるような感じでしたけど、今は伸びてて使い物になりません。決定打が無い状態です」
「それは分かってるが……」
「いいからやる!」
しょうがない。"自己空間"へハナと相手をご招待だ。その後に空間設定で空間影響力を10倍くらいに設定する。
「なんだここは?」
相手は罠を警戒しているのか動かない。ありがたいこって。
ハナがそこに重力負荷を叩き込む。全体へ。先程の武道場の時と同じくらいの負荷だ。しかし、設定した効果で10倍も効果が上がった負荷だけどな。
「ぐっおぉ………」
「ひっあっくっ………」
「こん、の……」
全員が押し潰される。ハナも男も俺も。だが、辛うじて俺が動ける。設定内容で少しだけ影響力を少なくしているからだ。
「くたばれ!」
"自己空間"内で出来る事を全て叩き込む。剣技も魔法も精霊術や結界術なんかも全て。
それでもまだ五体満足。どんな防御力だってくらいに硬い。硬すぎる。
10倍もの重力負荷に耐える耐久力、既存の魔法等がほぼ効かない防御力、カズキを一発で倒せるくらいの攻撃力。チートもいいところだぞ……。