10.三人との別れ
「それはいいけど、どっか定住してるような場所ってあるのか?」
「うーん、家って事ならまあ王の城が家みたいなものじゃない?あそこには何度も泊まったし」
つまり家を持ってないって事ね。それじゃあこの家は持っていくか。
「では、召喚者には罰則を施さずシン殿は勇者として活動していただくということで」
ヘンリが確認の為に再度言ってくれる。
「ああ。それじゃあ、よっと」
パンッと手を叩く。俺が座っていたソファーの後ろの空間が揺らめき、人が3人姿を現した。
「話し合いの結果、こういう事になっちまった。もっと他にも手があったし、出来た事もあっただろうけどな。俺は荒事にならなくて良かったと思ってるよ」
姿を現した3人はエリ、ヘレン、アンジェリカの3人だ。俺がヘンリとアカネと話をしている間ずっとここにいたのだ。
「私のために、すみませんでした。シンさんは本当は自由に生きる筈でしたのに……」
「いいんだよ。それに俺たちが会えなくなるわけじゃないんだ。エルグランドに行けば会える。そうだろ?」
「はい……」
「そんな悲しそうな顔をするな。そもそも俺を召喚してくれなきゃ会えなかったんだ。変わらないだろ?それに色々渡したんだ。それを使えば簡単に話せるし、会えるだろ?」
「そうですね……。わかりました」
俯いていた顔をあげて、微笑むように笑ってくれる。うむ、それでいい。
「ヘレン、エリがむやみやたらに渡したやつを使わないように見張っててくれよ。ここまででお前の有能さはわかってるつもりだ」
「エリ様の暴走を止められた事は一度もないのですが、今回のだけは絶対に守りますとも。お気を付けて下さい、私達はシンさんに生きていてほしいんですから」
「わかってるさ。無茶はしない。俺だって自分の命は惜しいからな。頼んだぞ」
頭を撫でてやる。これをしてやると落ち着くらしいんだ。
「アンジェリカさん。色々とありがとうございました。俺から何か出来たような事は無かった気がしますけど」
「そんなことないさ。シンさんのおかげでエリ様の罰は無くなったんだ。それにこの子達の相手もしてくれていたしね」
「それは俺がしたかったからしてただけですよ。アンジェリカさん、2人のこと今まで通りよろしくお願いしますね」
「ああ、任されたよ。シンさんも元気でおやりよ」
握手をして別れを告げる。
全員で家の外に出て、家の周り全てを魔法使いの空間魔法で亜空間に押し込めた。
「それでは、王都まで御同行願います。シン殿」
「へいへい。わかってるよ。それじゃあな、元気でやれよ!」
「あ、先行っててくれる?私はちょっとそこの子達と話す事と渡す物があるからさ」
アカネがエリとヘレンを指差して言ってくる。この状況で言う事なんて説教くらいしか無さそうだな。渡す物に関しては想像がつかない。
「手は出すなよ?」
「わかってる。約束だもの」
俺はヘンリについて行き王都を目指す。だいたい10分くらいでアカネが追い付いてきた。
「いったい、何を言ったんだ?」
「別にそんな大した事じゃないわよ。あの子達はいい子だと思ったから少し助言をしていい物をあげただけ」
助言ねぇ……。いったい何を言ったのやら。まあ叱ってないみたいだし、いいとするか。