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107.特訓の成果

 ハナ以外の18人の生徒がマリを狙う。それは考えれば当たり前の事だ。いつも勇者であるアカネの授業を受けている(実際には俺の授業)相手は勝つ上で必ず障害になる。災厄を振り払った勇者の授業が普通な筈がない、憧れを持つ生徒ならそう思うのが通りであり自然だ。


 では、なぜハナが狙われないか。今はアカネクラスに臨時クラス替えになっているのだから授業を受けている筈だろう。しかし、それはまだ1週間だ。そして、ハナは自分のクラスで自身の特異性を見せていない。だから実力は自分達より少し上ぐらいだと見積もったに違いない。なぜなら、見せていたら俺かアカネが勘付くはずだから。


 以上の事からハナが最初に狙われない。だが、勇者の授業は受けている。マリの後に狙われるのはハナだろう。


 だがーー


「それは私が行動しない場合、ですね」


 遠慮なく、躊躇なく、ハナは自身の特異性を周囲に見せつけた。そう、日本出身であるが故に創れた魔法、重力魔法を。自身すら(・・・・)も効果範囲内に含めて。


「っ、どうですかっ、この重力は。皆さん、初体験ですよね?」


 マリのもとへ一斉に向かっていた生徒18人も、そしてマリも、今、戦っている20人のうちのハナ以外の全員が地に伏している。それほどの重力負荷を定められた戦場フィールドにただ放っただけだ。


「なんっ、ですの、これっ……」


「凄いですね、さっすがマリちゃんです。まさか喋る余裕があるなんて」


 ハナも重力負荷の影響は受けている。しかし、この1週間、ハナは自身に重力負荷をかけ身体を慣らしていた。魔法による裏技も使い、かなりの重力負荷をその身に受けていた。だから、今立っていられる。喋っていられる。


「学院長、私以外の生徒全員、立ち上がれないようですから私の勝ちでいいですか?」


「っ、そ、そうですね。それではーー」


「待って、ください、ません?」


 よろよろと、膝をついて、手をついて、そしてゆっくりとだが、立ち上がる。


「私は、立ってます、の」


 脚にある鞭を手に取り、しかし重力負荷のせいで鞭は地面に叩きつけられる。しかし、マリの顔にはやってやったという笑みが浮かんでいる。


 しかしーー


「あれ、どうして、解除、されないん、ですの!?」


 この重力負荷は解除されない。いくら鞭に魔法解除の効果があっても、それが地面に触れて解除されるのは設置型魔法のみ(・・・・・・・)だ。それ以外の魔法を解除するなら当然、その魔法の発生源に触れなければいけない。火球や水球なら本体に、ゴーレムや人形ならその媒体に。では、この重力負荷の発生源は?


「マリちゃん、これを止めようとしても無理ですよ。これは設置型じゃない。普通の魔法ですから」


 ハナが上を見ながら言う。そこには、しっかりと重力魔法の発生源が存在していた。"重力球"と呼ばれていた、黒い球体が。


「武闘大会、あの時は全体への重力負荷って出来なかったんですよね」


 設置型か、誰かを対象に取る、それしか出来なかった。しかし、この1週間、重力負荷に耐えつつ重力魔法をさらに進化させた。


「あの空間で開発したものですし、"重力空間グラビティルーム"とでも名付けますね」


 "重力球"は常に範囲の上空に存在している。鞭で消すにはそこまで届かせないとならないが、重力負荷がかかっている状態では不可能。


「なら、魔法、で!"光線レーザー"」


 マリの放った光魔法はこの重力負荷にあるなか、見事"重力球"に命中した。


「ダメですよ、マリちゃん。そんなんじゃ壊せませんよ」


 しかし、"重力球"は壊れない。"重力球"は元々耐久性だけは優れていた。アカネの剣技を耐えれるくらいに。だから、魔法一発で壊れるはずが無い。


「なら、もう、一度!」


「マリちゃん、私がそれを許すとーーっ、シンさん!」


「分かってる!」


 影が伸びる。マリの影が。ハナの影が。他の生徒の影も。その場にある全ての影が一つの場所へ集まっていく。


 俺は阻止すべく剣で影を斬った。切り刻んでやった。しかし、影は意に介した様子もなく一つに集まる。


「物理無効かよ!くっそ」


 禁止級なら確実に仕留められるが、生徒、教師、学院長、この場でやるのはまずい。


「ハナ、こいつを連れて行く!周りに説明した後追って来い!」


「わかりました!」


 集まっている影に魔法でマーキングする。


 "転移・改"でマーキングが付いた影ごと荒野に移動する。ここなら既にちょっとぼろぼろだし大丈夫だろうからだ。


「あっれれ〜影が少し足りてませんね〜。ま、いいですかね〜」


 そして、初めて影が言葉を発した。お気楽な男の声。影は人の姿を取っていく。その背には大きな翼が形作られている。


「どうも〜。勇者さんですよね〜」


「お前があの時裏で糸を引いていた奴だな」


 確信を持って、そう言った。

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