104.護衛役
「いいですけど、これも貸しですよ」
「あはは……。僕は貸しじゃなくていいですよ」
学院の他に人のいない隠れた一室で、異世界人組のハナとカズキに話したらそう言われた。
「俺が貸しにしてから何でもかんでも貸しにしてくるんじゃねぇよ」
「別に私は手伝わなくてもいいんですよ?危険があればクーちゃんと逃げるだけですし」
こいつ……。カズキの素直な所を見習ってほしいものだ。
「僕はシンさんには救ってもらった恩がありますからね」
やっぱりいい事はしておくべきだよな。
「まあいい。これで4人だ。戦力はこれだけと思ってくれ」
「あれ、ヘレンちゃんとかは?シンさんが声かけたら喜んで付いてくると思いますけど」
「これは一応異世界人関係だ。あいつらに手伝ってもらう事じゃない。それに、生徒は守るものだ。戦いに駆り出す様な事はしちゃいけない」
「私も一応生徒なんですけど」
「ハナは見た目が若いだけでババアだろ」
「カズキ、止めないで。いっぺん殴る」
ババアと言った瞬間にハナが拳を振り上げて、カズキが腕を掴んで止めていた。
「今じゃなくて後でなら止めません。今は話をするのが先決です」
後では止めてくれないのか……。
「話っていってもそんなにする事なくないですか?王と騎士団長の護衛なんてここの誰も出来ないじゃないですか。みんな朝から学院にいるんですから」
そうなんだよなぁ……。そこが問題だ。今回の件、まだ他の人は誰も気付いていない。だから護衛だとか言って休む事が出来ない。学院長のリーさんに言えば休ませてもらえるかもだが、事情を教えるとリーさんが狙われる可能性も出てくる。
「なんかこう、いい魔法ないか?」
「私が使えるの重力魔法だけですよ。開発するのにかなり時間かかってるんで」
「僕はアネラと契約してるので、精霊術が使えますけど、護衛に使えるようなものは無いですね」
「私、魔法じゃなくて剣がメインだから魔法で当てにしちゃダメよ」
3人にはこの状況で使える魔法はないらしい。困ったぞ……。
「小僧、私がやってもいいぞ?」
「は?」
その場にはいない、クーの声が聞こえた。扉の方を見ても誰もいない。部屋の中には4人だけ。なら一体どこから?
「小僧、下だ」
下、と言われて下を見ると自分の影が微妙に揺れている。俺が動いているわけでも無いのに、揺れているのだ。
「もしかして、影か?」
「正解だ」
影から黒蛇がニョロニョロと出てくる。尻尾まで全て出てくると、人の形をとった。いつもの、クーの登場である。
「お前、いつから影の中にいたんだよ……。というか、影の中に入るなんてどうやった?」
「小僧が寝てる時に影に入った。何やら不穏な雰囲気を感じたからな。そしたら小僧が騎士団相手に本気を出したりするからの。驚いたぞ」
「つまり、最初からいたわけだな?それで話も聞いていたと」
「ああ。それで、影に入る方法だが、魔法だな。適当にやってたら出来た魔法だ。そんなに詳しく出来てないから小僧が使うのは無理だぞ」
こいつ……もう魔法開発しやがったのか!?
「で、だ。小僧が頼むなら私が王と騎士団長の護衛をしてもいいぞ」
「どういう風の吹き回しだ?クーはそんなのやる必要が無いだろ」
「ハナがやると言った。なら私もやってもいいと思っただけだ。それにやるとしたら貸しを貰うぞ」
こっちも貸しですか。そーですか。
「……護り抜く自信は?」
「無かったらこんな事は言わん」
だよな。
「なら頼んだ。アカネ、クーは出席扱いにしといてくれよな」
「分かってるわよ。本当に信じていいのよね?」
「勿論だ。私は王と騎士団長には危害は加えられんしの。それに、私はうっすらとだが敵を見たしの」
「まじか!?」
「影から、しかも夜、距離の問題で本当にうっすらとだがの。敵は人型、二人、翼があった。それだけだ」
「いやいや、それだけでも十分ありがたいぞ」
「……蛇ってそこまで視力良かったっけ?」
「私を舐めるなよ化物。蛇状態でも魔法で視力を強化すれば見える」
「ちょっ、化物呼びは酷くない!?」
「間違ってないだろう」
うん、間違ってないな。アカネは化物。マジ怖い。