バトン
君は誰が好きですか?
君は僕が好きですか?
僕はこれからもきっと君が好きだと思います。
高2の冬、俺は相変わらず恋をしていた。
同じクラスの隣の席の美希。
長いサラサラの髪が綺麗で、すこしハーフっぽい顔立ちが魅力的だった。
すこしでも喋りたくて、わざと教科書を忘れたり宿題を忘れてノートを見せてもらったりした。
休み時間になるとまた女達がワイワイ騒いでいた。
バトンリレーだ。
ノートの切れ端に絶対答えないといけない問題を3問書いて相手に渡す、バトンを出したほうも答えたほうも誰にも言っちゃだめ。
答えたほうは次にバトンを出す奴を選ぶ権利が与えられた。
もちろん権利を放棄する奴もたくさんいたし、告白じみたことは滅多になかった。
ふん。女の考えそうな遊びだこと。
一度だけ、俺の友達に来たバトンを盗み見した、友達に女がバトンを渡しにきた時はクラスが騒然とした。
それはもうほとんど告白と言ってもいい行動だった。
互いに真っ赤な顔をしてバトンを渡し、受け取った。
俺にもあんな勇気があればなぁ。
バトンの内容は
1)好きな人はいますか? A>いません
2)クラスで誰が一番可愛いですか? A>わかりません
3 今日、一緒に帰りませんか? A>いいよ
あれほどの勇気を出した女には同情したが、問い1〜3までは男友達に対するブラフだった事は
問い3でOKを出している事からすぐにわかった。
それにしても、まるで中学生だな。バカバカしい。
とにかく、それでカップルが生まれるのが俺のクラスの流行になってしまった。
友達は次にバトンを出す者を決める権利を放棄した、こうなるとまた女子達が騒ぎ出し
休み時間中ずっと次の挑戦者を決める会議をしていた。
美希はその他大勢と一緒に会議に参加していて、俺は気になっていた。
帰宅部仲間との帰り道の話題は、やっぱり今日のバトンについてだった。
一人が、美希からバトンきたらいいな!と突然言い出したからドキッとして、別にどうでもいいよと顔を真っ赤にして答えた。
はいはい乙乙。と、みんながニヤニヤするから俺は恥ずかしさに
「美希からバトンくるくらいなら死んだほうがマシだね!」
と、大声で言ってやった。
俺達をスタスタと追い越していく美希と、2人の美希の友達が通り過ぎるのに気づいたのはその直後の出来事だった。
追い越しざまに美希の友達が言った「あんたにマジ最低だね」という言葉に俺は打ちのめされた。
恋が終わるのは意外に早く、予期できない事だと知った日だった。
友達の聡が俺の肩をポンと叩いて、ドンマイと小さく言った。
別に、とだけ答えて俺達は美希達に追いつかないようにゆっくり歩いた。
一度だけ美希が振り向いてまたドキッとしたが、その目は明らかに俺を睨みつけていた。
次の日、俺はまた教科書を忘れて行った、何も無かったように渾身の笑顔を伴って美希に話しかける作戦だった。
なのに今日に限って数学教師の岡島が「なんだ教科書忘れたのか?俺の使っていいぞ」と、余計な気を使いやがった。
タイミングを逃がした俺は結局、丸一日美希と口をきく事ができなかった。
美希も一度もこっちを向くこともなかった。
もともと始まってもいなかった俺の恋は、やっぱり復活することも無くて胸がズキンと痛くなった。
帰り道に聡が、美希の事好きなんだろ?と聞いてきた。
やっぱりバレてんのか、好きじゃなくて(好きだった)んだよ、うるせーな。
諦めんのか?
うるせーよ
頑張れよ
いや、無理でしょ。普通に無理でしょ。
もうやめてくれよ、あんなの普通に誰だって嫌だぜ(マジ最悪なんだけど)とか語尾上がりに言われちゃうよ。
聡は優しい奴だ、こんな友達ずっと大事にしたい。
聡はなんとか俺を励まそうとしてくれた。
「あ!!」
なんだよ
「お前バトンやれよ!」
何を言い出すのか、聡は自信満々に言い出した。
無理に決まってる、こう見えても俺は照れ屋だ、あんなに大騒ぎされたくねー。
第一負けるとわかってる勝負なんかする気もしない。
「俺が段取りしてやるからまかせろって!」
俺は何度も嫌だと言ったが聡は聞く耳を持たなかった。
一体どうなるのか、、、あぁ明日学校休もうかなぁ、、、
夜に何度も聡にメールしたけど返事は返ってこなかった。
次の日の教室は異様な光景だった。
ちょうど教室の真ん中に位置する俺と美希の席を隔てて女子と男子が真っ二つに別れていた。
男どもは何か相談しているようだった、もちろん議長は聡。。。。。嫌な予感がしてもう帰ろうかと思った。
女どもは俺が教室に入ったとたんに急に静かになった。
何が始まるんだよぉ、勘弁してくれよ。
ホームルーム直前に美希が来た。
やっぱり可愛いなぁ、一瞬目を奪われたがすぐに逸らした、目が合うとどうしていいかわからない。
昼休みに事件は起こった。
クラスで可愛さでは上位に入る彩が、サッカー部の陽一にバトンを渡した。
いつものように、クラスは大騒ぎになって陽一はその場でバトンを開き答えを書いた。
彩が突然泣き出し、陽一が勢いよく椅子の上に飛び乗った。
「俺達は今日から付き合います!次にバトンを渡す奴の机に放課後バトンを入れるから、頑張ってほしい!」
なんだよそれ、俺に渡すのかよ。
一気に憂鬱になった、話しを聞いた陽一が勢いで言ったのか、それとも全てが出来レースで聡が仕組んだ事なのかわからなかったが
別にどうでもいい事だった。
それよりあれだけ嫌だと言ったのに、と聡が恨めしくなって教室にいることも美希が隣にいる授業さえも嫌になった。
放課後、やっぱり俺の机にはバトンが入っていた。
俺は誰にも見られないようにズボンのポケットに入れ、そのバトンを廊下の窓から捨てた。
次の日学校に行くと、今日も教室は盛り上がっていた。
新しいカップルが誕生していたからだ、聡が「なんでみんな彼女できんだよ〜俺にもバトンこないかな〜」
と、愚痴をもらしていた。
陽一は、俺じゃなくクラスの女の机にバトンを入れていた。
急に胸がドキドキ鳴って、万が一の可能性を信じ始めた。
ただなんとなく、そんなわけないと思いながら何故か俺には美希からのバトンだと思えた。
放課後、いつも一緒に帰る聡に呼び止められる前に昨日捨てた廊下の外にでた。
草刈り機やスコップを入れる、倉庫があって用務員の先生意外はほとんど誰もこない場所だった。
たしか、この辺に、、、、、しばらく探したが昨日のバトンは無かった。
冬の早い夕暮れが恨めしかった、もうすぐ真っ暗になる。
まぁ、そんな都合いい事あるわけないかと、諦めて帰ろうと思った。
「問い1.あなたは誰が好きですか?」
後ろから聞こえた声にビックリして固まってしまった。
振り向けずにしゃがんだまま下を向いていた。
「問い1.あなたは誰が好きですか?」
俺は、、、、俺の好きな人は、、
「問い2.あなたは私が嫌いですか?」
問い1に答えようとした俺の言葉をさえぎる様に問い2が来た。
お、、俺はお前がでh
「問い3.私は、君が好きです」
頭が真っ白になって、何も見えなくなった。
「そのまま答えて」
少し、声が震えていた。
俺も同じように、震えた声でゆっくり答えた。
「問い1.俺は美希が好きです。隣にいるだけで毎日幸せです」
「問い2.俺は君を嫌いではありません。君を傷つけた自分が嫌いです」
「問い3.俺はこれからもずっと君が好きです」
妙に落ち着いた、はやく美希の顔を見たくて振り向いた。
わっーーーーー!!っと、歓声が起こった。
廊下の窓からクラスのみんなが顔を出して騒いでいた。
振り向いた俺の前には美希がいて、恥ずかしそうに笑っていた。
騒いでいる中心には聡がいて、やっぱりなと思った。