第四話
本当にお世話になりました、と頭を下げると、彼女はいつものように優しく笑って、こう言ってくれた。気を付けてね。貴女の行く先に、どうか、神様のご加護がありますように。
結局、わたしは彼女がどういう人なのか、何も知らないままだ。きっと、それでいいのだろう。
告白してしまえば、わたしには事件の真相を解き明かしてやろうといった気概はなく、もちろん彼女を糾弾しようという意図もなかった。それでもリラの最期について彼女に尋ねたのは、ただ純粋に、リラという少女の物語がどういう結末を迎えたのか、それを知りたかったからなのだ。
下世話な好奇心といえば、そのとおりだろう。リラの死を悼んでいるのかも定かでない、村人たちの熱狂に違和感を抱きながらも、わたし自身やっていることはさして変わりなかったわけだ。
そして、彼女はリラの死について、村人たちに語ったのとは違う真相を語ってくれた。
リラは首をつって死んでいたのだ、と。
真実かどうかは、わたしにはわからない。
しかし、彼女や村人たちの話を総合すれば、リラという少女は到底、自ら命を絶つようなことをする人物ではなかった。それは確かである。もしかすると彼女は、リラという少女の物語を壊したくなかったのかもしれない。だから、村人たちには嘘をついた。しかしそうだとしたら、なぜ彼女は、わたしにだけ真相を伝えたのだろう。誰かに、知っていて欲しかったのだろうか。
彼女は、多くは語らなかった。わたしも、それ以上問いただすことはしなかった。
あるいは、こう考えるとしっくりくるのかもしれない。
彼女はリラの苦悩について、それがどういうものか知っていた。だから、リラの死を目の当たりにして、深く悲しみながらも、同時に安堵したのだ。すべてから解放されたリラのことを想って。
なんにせよ、わたしが彼女に最初に抱いた疑念は、バカバカしい思い違いだった。
あるいは。
あるいはもしかしたら、それは羨望だったのかもしれない。
わたしが村をたつとき、最後に、彼女がわたしに向けたまなざし。それは彼女がリラのことを語ってくれたときのそれと似ていた気がする。穏やかで優しげで、
とても、寂しそうだった。
〇
世界は当たり前の不幸にあふれている。ドラマチックな悲劇の陰に埋もれたそれらの物語は、きっと誰にも語られることはない。それでいいのだろう。そうやって、人は生きていく。
――少女の旅行記は、未だ、白紙のままだ。
少女と殺人・完