第三話
わたしがこの村にやってきてから、二日の時が経った。
リラの死を巡る騒ぎはまだ収まっていない。一番最初に出会った村人が彼女で良かったとつくづく思う。彼女は、村全体を包みこむ異様な喧噪とは、どこか全く別の場所にいたのだ。
村の外れにあるこじんまりとした小屋が、彼女の住まいだった。といっても、別に他の村人との交流を絶っているとか、異端視されているというような様子ではなく、ごく普通のこととして、彼女はそこで独りで暮らしている。わたしのことは、もしかすると、庭に迷い込んできた野良犬か何かだと思っているのかもしれない。
なんにせよ、彼女には彼女の事情があるのだろう。当たり前だけれど、それについて詮索するようなことはしなかった。聞いてみたら案外、なんでもないことなのかもしれないけれど。
彼女はわたしに、旅の話を聞かせてほしいといった。口下手なうえに語るべき物語を持たないわたしは、最初は口を濁したが、彼女がそれでもとせがむので、当たり障りのない旅の失敗談の数々を話した。食料を買い込みすぎて腐らせてしまった話とか、そんなくだらない話を。彼女はそれでも喜んでくれた。
すぐにわかったのだが、彼女はその落ち着いた印象よりも大分人懐っこい性分で、わたしの中で、時折、別人と重なるところがあった。
他でもない、彼女自身がわたしに話してくれた、リラのイメージだ。
――そして、もうすぐ、わたしが村をあとにする朝がやってくる。
リラの死を巡る事件について、一切関わることはしまい。そう決めていたわたしだが、実は、どうしても気になることが一つあった。それは、村人たちの話を聞いているうちに抱いた、強烈な違和感。
誰ひとりとして、リラの死について、詳しいことを知らないのだ。
信じられないことに、あれだけ騒いでいる村人たちが、いつ、どんなふうにしてリラが死んだのか、ほとんど何も知らないのだ。どうも、彼らにとっての重要事項とは、リラが殺されたらしいこと、そして、その犯人が誰なのかということに尽きるようだった。
そんななかで手に入った、唯一の手がかりといえる情報。
第一発見者は、彼女だった。