第一話
リラの死は、村中を震撼させた。
ごめんなさいね、とその人は言った。せっかくこんな辺鄙なところまで来てもらったのに、村は今こんな感じで……。
飾り気はないが、美しい顔立ちの大人の女性だった。物憂げな雰囲気は、たったいま聞かされた村での出来事のせいなのか、あるいは彼女生来の気質なのか。きっと両方だろう、とわたしは思う。彼女が快活に笑う様子は、あまり想像できなかった。勝手に、失礼きわまりない話だけれど。
先ほどもらった暖かい飲み物を見つめながら、彼女への返答を考える。
こんな時、よく頭のまわる人なら、とっさに気の利いた返しが出来るのかもしれない。けれども、口下手なわたしは何と言っていいかわからず、迷った挙句に口から出たのは、いえ、お構いなく、という一言だった。――とてもじゃないが、これから一宿一飯の恩に預かろうとしている旅人のセリフとは思えない。かといって、何の事情も知らないよそ者が同情めいたことを言うのも、かえって不誠実な気もする。だって、所詮は通りすがりの旅人に過ぎないわたしは、村人たちを襲ったその悲しみに共感できないのだから。
そんなわたしの気まずさをくみ取ってくれたのか、彼女はぽつりぽつりと話してくれた。
つまり、リラという女の子は、前の月に15歳になったばかりで、明るくて素直ないい子で、動物が好きで、手先が不器用で、けれどお菓子作りが得意で、妙に律義なところがあって、笑顔が物凄くかわいくて、もちろん、村の誰もから好かれていた。そんな話を。
わたしは想像する。顔も声もまるで知らない、リラという少女を。その幸福を。その悲劇を。……そして、ある違和感が急速に膨らみ、はっきりとした形をとり始める。
「あなたは、」
彼女が不思議そうにこちらを見つめる。
「――いえ、なんでもないです」
喉元まで出かかった言葉を、わたしは飲み込んだ。だってきっと、思い違いだ。それはあまりにも、わたしがさきほど彼女を根暗だと決めつけたのとは比較にならないほどに、無礼で、バカバカしい話だから。
……どうしてだろう。わたしには、彼女がリラの死を悲しんでいるようには見えなかったのだ。