⑥
「それで、最近みんなどうなのよ? 各自、できるだけ詳しく!」
出された食事もひととおり食べ終わり、酒とつまみが中心になってきたころである。もっとも酒が進んでいるはずなのに一向に赤くならない魔法使いは、仲間たちにいたずらっぽく尋ねた。
「と、言いますと?」
「仕事のこととかー、趣味とか、恋愛とか、おもしろければ何でもいいわ! じゃあ、最初はロガールね」
「はあ、私の近況ですか」
おもしろくはないと思いますがと前置きをして、僧侶はオレンジジュースで唇を潤してからぽつぽつと語りだした。
「先程も少し言いましたが、ポラール教団再建のときの働きが認められ、わずかながら部下を持てるようになりました。ほかに大きな変化というものはありませんが、おかげさまで心穏やかに日々を過ごすことができています」
胸の前で手を組み、ロガールは微笑んだ。この落ち着いた表情が、そのまま現在の安定した生活を表しているようだった。
「で、三十路を前に近々新興宗教を立ち上げる予定、と」
そこに、目の前の酒飲み――イカの足を乾かしたつまみをしゃぶるプリミラが口を挟んだ。
「……立ち上げません、そんなもん」
それを、ロガールはどすの利いた低い声で返す。彼もプリミラに対抗するように、何故か同じつまみを手にしていた。
「本当かしら。こういういい人っぽい輩に限って腹の中は底なしの真っ黒なのよね、例えばプルーリオンのおっさんとか」
「プルーリオン将軍の腹黒さには同意しますが、私はそんなこと考えません。あの中年と一緒にしないでください」
「……心の底からごめんなさい」
ふたりの会話に割り込み謝ったのは、何故か全身を震わせているエクエス。ちなみにプルーリオンとは、先の戦いにおいて一行が大いに世話になったトラぺジオン王国軍の「えらい人」だ。
何かに怯えるエクエスのことはとりあえず放置して、彼らは同じつまみを手にどこか温度差のある会話を続ける。
「でもさ、あんたのようなにそれなりにできる人が、教団みたいな巨大組織の端っこにぶら下がっていてもメリットはないんじゃない?」
魔法使いは少し大人っぽくなった笑顔でにやりと笑う。こんな色鮮やかな笑顔、二年前の彼女は持っていなかったはずだ。かつての仲間の思いがけない成長に、ロガールは驚く。そして何より、自らの能力を褒められて悪く思う者はほとんどいない。彼もまた「大多数」のひとりだった。
「む……」
信仰心と現実との間でかすかに揺れるロガールに、プリミラが追い打ちをかけた。
「それならいっそ、自分で新しい組織を立ち上げちゃった方がいいことあるかもよ?」
彼女はもう一度、赤い花のように美しい笑顔を見せる。ロガールは青ざめた。これは自分を誘惑する悪魔の罠だと。本当の悪魔は経典の中ではなく、もっともっと身近なところにあったのだと。
「か、考えておきましょう」
とうとう悪魔を降り切れなかった彼は、悔しそうにつまみを噛みちぎって壁の方を向く。
これこそ、信心深い僧侶の煩悩が引き出された瞬間であった。
『おそろしいものを見た気がする……』
赤い花の悪魔の隣では、ああああが正面のエクエスに筆談で感想を伝えていたのだった。