③
雪がちらちらと舞っている。強くなりそうな様子は見られないものの、空はまだまだ晴れる気配もなく灰色のままだ。日が落ちて夜になれば、また一段と冷え込むことであろう――。
さて、神の加護やら補助魔法やらといったものを総動員してどうにかエクエスを地表に下ろしたころになって、やっと村の奥から三人にとって見覚えのある人影が走ってくるのが見えてきた。近づいてくるのはもちろん今日の集まりの主催者、この村に住む剣士の彼である。
「あっ、来た!」
最初に彼に気付いたのはプリミラ。
「おお、久しいな!」
続いてエクエスも反応する。ふたりが剣士に手を振って喜ぶ中で、ロガールはひとり渋い顔をして思い悩んでいた。
「……元気そうではありますが……」
誰にも聞こえない声でロガールは不安をつぶやく。そうこうしているうちに剣士は三人の仲間のもとに到着した。息を弾ませ、笑顔を見せる彼に、プリミラとエクエスのふたりは次々に言葉を掛けた。勇者一行と呼ばれた若者たちのおよそ一年ぶりの再会が、今果たされたのだ。
「久しぶり! 元気だった?」
「今日という機会を作ってくれたこと、俺は大いに感謝するぞ!」
談笑。冬の寒さや天気の悪さを吹き飛ばすくらいの明るさと活気。
「おばさんも元気みたいでうれしいわ! お料理楽しみにしてるわね」
「いやぁ、まったくだ! そうだ、今日のため、お前と母君にわずかばかりの土産を持ってきたんだ。ふたりで食べてくれ!」
そんな心温まる風景を、遠巻きに見守る僧侶。楽しそうに笑う剣士。しばらく様子を見ていた彼だったが、とうとうたまらなくなって剣士に尋ねた。
「……剣士『ああああ』よ。あなたは未だ、その名を、その呪いを脱せずにいるのですか?」
冷たい空気の中に言葉が放たれた瞬間、談笑はぴたりと止まった。
「……!」
そして伝説の勇者――剣士ああああは、懐からそっと取り出したメモ帳にさらさらと文字を書き、ロガールの目の前に笑顔で示したのである。
『イエス!』
――二年前、共に世界を救った四人の若者がいた。勇者として語られる剣士を中心に、この星のいのちを奪おうとする「異界の王」と戦った勇敢な若者たちがいた。
その戦いは多くの犠牲を生んだが、彼らは人々をまとめ、見事に異界の王を退けた。その偉業はこれからも伝説として語られ続けるであろう。きっと、とても長い間。
しかし意外なことに、現在の彼らがどこで何をしているのか、知る者はあまりに少ない。そして今日に至るまで、勇者たる剣士が魔女の呪いから名前と言葉を取り戻せていないままであることを知る者は、さらに少なかった。