①
二年前、共に世界を救った四人の若者がいた。勇者として語られる剣士を中心に、この星のいのちを奪おうとする「異界の王」と戦った勇敢な若者たちがいた。
その戦いは多くの犠牲を生んだが、彼らは国をまとめ、人々をまとめ、見事に異界の王を退けた。その偉業はこれからも伝説として語られ続けるであろう。きっと、とても長い間。
しかし意外なことに、現在の彼らがどこで何をしているのか、知る者はあまりに少ない。これは雪のちらつく年末、戦いを終えた英雄たちの日常に起こった小さな物語である。
季節は冬、年末と言われる時期が確実に近づいてきた、そんなころだった。トラぺジオン王国内に住む三人の若者のところへ、ほぼ同時に手紙が届いた。差出人は同一、彼らのかつての旅の仲間である。
「……拝啓、みなさま。お久しぶりです、お元気でしょうか……」
三人のうちのひとり、トラぺジオン南部の魔法使いの村に住むプリミラは、手紙を受け取るなり、封筒を乱雑に破って中身を読み始めた。彼女はまだ熱いコーヒーを飲みほして、溜め息をひとつつく。
「あいつ、相変わらずあいさつが長いわね」
呆れつつも、その緩んだ表情にはどこか喜びがあふれているように見える。プリミラは歯を出してにかっと笑うと、うれしそうに続きを読み始めた。
そのころ王国の中央にある王都メソンにあるポラール教団の本部大聖堂では、ひとりの僧侶が朝の祈りを終えたところだった。彼は大聖堂から中庭に出て、その日の太陽のまぶしさに、いのちのある喜びを噛みしめるように微笑んだ。穏やかな風が吹き、小鳥舞う庭の風景に、僧侶はその場から離れがたい魅力を感じていた。
「ロガール様」
ふいに名を呼ばれ、僧侶は振り返る。するとそこには、小さな封筒を持った若い修行僧が立っているではないか。
「失礼します、ロガール様。お手紙でございます」
「私に手紙、ですか?」
めったにないことに、僧侶ロガールは驚きを隠せない。それを感じ取ってか、中庭の鳥たちが一羽一羽と飛び立っていく。修行僧は彼に封筒を渡すと、深々と頭を下げ、静かに去って行った。
「珍しいこともあるもの、ですね」
ロガールは、誰もいなくなった庭をやさしいまなざしで見遣ると、今度は手の中の封筒を裏返して差し出し人を確認する。
「ああ、彼から――そうですか、そうですか……」
珍しい出来事、珍しい名前。この落ち着かない朝に感謝しつつもロガールはひとつだけ、胸が締め付けられるような悲しみを覚える。
「――彼の呪いはまだ、解けていないのですね」
同時刻、同じく王都メソンの一角にあるアパートにて。単身者向けの一室に住まう青年エクエスはいつもどおりに目を覚まし、いつもどおりに身支度をしていた。今日も仕事だ。
エクエス――今は亡きトラぺジオンの隣国、メリディエ王国の王宮騎士だった人物である。現在の彼は、メソンに住みながらかつてのメリディエ王女の護衛を行っている。世界を救う冒険のさなかで祖国を失い、たったふたり生き残った彼らは、トラぺジオン王家の庇護のもとで平穏に暮らしていた。
簡単な朝食を済ませたエクエスは、玄関扉に備え付けられたポストに一通の手紙が入っているのを見つけた。出発までにはまだ余裕がある。彼は早速封を切って、差出人もろくに確認せずに手紙を読み始めた。
「なになに、みなさんお元気でしょうか……」
その手紙にびっしり書かれた几帳面な文字。その中に、彼はかつての仲間である剣士の顔を見た。
「ははあ、あいつから手紙とは珍しいこともあるものだ。なに、久々にみんなで集まろう、だって?」
冒険の仲間たちのリーダー格であった剣士。今は故郷の村に戻っている彼が、大晦日にかつての仲間たちで集まって、記念すべき年明けを祝おうというのだ。
「……まあ、あいつやプリミラと会ったのも、去年が最後だものな……」
エクエスは仲間の顔を思い浮かべながら、彼らと過ごす楽しい年末の様子をぼんやりと思い浮かべた――早速、参加する旨を返事してやろう。彼は、表情を緩めてそうつぶやいた。
「さて、今日の仕事が終わったら、早速返事を出すこととしようか」
上機嫌で身支度の続きを済ませた彼はカバンを持ち、出発前に戸締りを確認しているさなか、唐突にあることに気が付いた。
「あっ……」
――さて、手紙の内容はこのとおりだ。
拝啓、みなさま。お久しぶりです。お元気でしょうか。みなさんとの旅の終わりから、早いもので二年が経ちました。僕は現在、あの冒険を文章に起こしつつ、故郷に戻って国内復興のお手伝いをしています。(以下、延々とあいさつが続くため中略)
さて、本題です。来たる年明けを、アナトレの僕の家で迎えてみませんか? 当日は僕と母の手料理でおもてなしいたします。全員が成人を迎えたこともあり、少ないながらもお酒を用意したいと思います。久々に集まって、近況などお話しましょう。どうぞお返事をお聞かせください。敬具。