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第二拡張期。

続きが書けたので続きます。

「成程ねぇ…どおりで最近405監視外宙域が静かなわけだ。こっちじゃ大口の顧客が居なくなったって裏の武器商人らが嘆いてたぜ?」


 知るかそんな事。こちらとしては正当防衛を主張するし、そも監視外宙域とかいう場所に法律を当て嵌めようとするのが間違っている。あそこは治外法権というか法律を放棄した奴らばっかりなんだろう、なら自己責任だ…と言う旨を伝えると、通信画面の向こう側で髭面のおっさんが苦笑いした。


「ま、その通りだ。ゼロ・セキュリティー宙域なんぞで誰が死のうが管理機構は気にもしないし、海賊どもを相手に商売してたやつら以外、真っ当なトレーダー達からはむしろ感謝されてるさ。少しは、な」


「少しか」


「それでも多めだろうよ」


 おっさんはそう言って肩をすくめた。全く堪えた様子が見えないし、どちらかと言うと喜んでいるらしいのを観るに、本人曰く「真っ当なトレーダー」アピールのつもりなのだろう。

 が、どうにも先ほどからの通信を鑑みるに、おっさん自身は喜んでいても、背後にちらちらみえる真っ当でないやつらからの遠回しに釘を刺そうとする意図が見え隠れしている。まぁコネと金が商人の財産なんだから、自称真っ当なトレーダーとは言えそういう輩とは全く繋がりが無いと言ってのける奴がいたら、よっぽど中小か大物か馬鹿か、だ。


「このご時世、海賊なんて掃いて捨てるほど居るし、監視外宙域なんてそろそろ4桁に届こうかって数がある。その上その極々一部が一時的に静かになってもどうせ直ぐ隙間は埋まるだろうからな。知ってっか? お前さんが潰した海賊の根城、今は何個かの海賊団が縄張り争いでサバイバル状態だとよ」


「……ほんとか?」


 後ろを振り向いて尋ねてみれば、ふわふわと浮かんでいた妖精が一瞬虚空を見上げる動作をする。

 今は同調管制制御装置、通称手袋を身に付けていない為解らないが、もし付けていたらこの船についているセンサー類がつい先日通り過ぎた宙域にいくつかのアンテナを向けた事がわかっただろう。まぁ何というか髪の毛が勝手に軽く引っ張られて動く感覚を感じるだけなので、付けていない方がありがたいと言えばありがたいのだが。


「確認しました。100隻近い海賊船と思われる小型の船が戦闘中の様です。通信、聞きますか?」


「いらんよ。大体想像はつく」


 どうせ下品な罵声と恨み事と下手な挑発が飛び交っているだけだろうに。目で軽く礼を言って視線を戻す。


「こりゃ善良な一般人は暫く近寄らん方が無難だな」


 その一言だけで興味もなく切って捨てた俺の言葉に、モニターに映ったおっさんが大げさに肩をすくめた。


「お陰で上納金さえ払っておけば通れた裏道が使えなくなった、ってのが5割。襲われた恨みもあってザマーミロってのが3割、9割がどうやら噂の幽霊要塞は実在してて、とんでもない戦力だと解ってどう利用してやろうかと腹に抱えてる連中だな」


 足して17割とか出てくるあたり、ほんとこの時代の商人どもは逞しい。表はどうあれ裏ではこっちに興味津々というわけか。


「おっさんもか?」


「俺は今んところ1割の方だな。一応命の恩人だし、何より下手に敵に回すとおっかない」


 ま、そりゃそうだ。正直な話、そこらの有象無象が束どころか塊で襲ってきても蹴散らすのは簡単だ。


「……勘違いしてるようだから言っておくが、怖いのはお前さんでもその船でもないぜ。ちっこいお嬢ちゃんだよ。手加減って物を知らねぇからな」


 思わず椅子ごと振り返る。180度旋回した視線の先では『お嬢』が素知らぬ顔で目線をそらしやがった。何やった、と問えばしらばっくれているのか解りませんと返したので背後のおっさんに通信越しに尋ねてみる。


「いやちょ~っと資源を足元みて多めに請求したんだがな? 次の日には海賊どものブラックリストに登録されて――」


 ぷつん、と音を立てて通信が途絶えた。


「電波状態が悪いようです」


「亜空間形成型重力子通信器が電波で回線を構成してるとは知らなかったな。で、難しかったろう?」


「ファイアーウォールも圧縮ハイパープロセッサも光子ノードの展開もされていないネットワークに手古摺るなどありえません」


 そうか、とだけ答えてデコピン一発。


 


 さてまぁ命の恩人と言われる程の事をしたつもりもないのだが、さっきのおっさんは自称善良なトレーダー、要するに宇宙を股にかけ荷物を運んで交易で稼ぐ商人である。あっちの余り物をこっちに運んで珍品だと言って高値で売りさばいてみたり、物資だけではなく星系間を人も運んで運賃をぼったくってみたりとそれだけを聴けば中々に利益を上げているように聞こえるが、そんなにうまくはいかないのが現実だ。


 海賊は居るわ、この時代だとちょっとした超新星爆発やブラックホールや重力異常や空間歪曲宙域なんかをまだまだ克服できていないわ、超空間航法も効率が悪くて時間がかかるわと問題も多い。


 んで、トレーダーのおっさんがトレーダー達で金を出しあって護衛で雇った筈の傭兵が実は海賊で、まぁ見事に油断していた所を背後からサクッと襲われそうになった。

 なんとか必死こいて逃げようにも輸送船とガチガチの戦闘艦じゃぁ勝負になるわけもなく、襲われて救難信号を出したところで、最寄りの警備隊が居る場所が小型のキャラバンの補給ポイントしかないような辺境惑星に大した戦力があるわけでなし。諦め半分で脱出ポッドの中で自分の身代金がいくらになるか、と嘆いていたところに俺たちが出現。


 慌てて攻撃してきた元傭兵現海賊たちに思わず反撃しちゃって、おっさんの輸送船ごと素粒子にまで分解した後で(おっさんには言えないが奇跡的に射程外だった)おっさんの脱出ポッドを発見。救出したのだ。


 事故で過去に飛ばされた直後で、データ収集の為とそれなりにダメージを受けた船体を修復する為に漂流しながらの一週間ほど、おっさんはこの船に間借りしていたのだ。


 その時にまとめて吹き飛ばしたおっさんの輸送船に関しては流石に悪いと思ったのだが、どうも船や物資も痛いが、それ以上に海賊に掴まって身代金を要求される方が被害が大きいらしい。自分の命と引き換えに、己の財産が預けてある管理機構の登録コードと取引用コードを吐き出させられるらしいのだ。


 んで、そこらへんに転がっている石を全財産で買わされ、機構には商売として記録される為訴えても取り合ってもらえず。ようやく中堅どころから頭を出そうとした直後に危なく商人として、また運が悪ければ人生も終わるところを助けられたので恩に感じている、のだそうな。


「管理機構ってのは本当そのあたり雑だよ」


「お陰で私たちの様な何処からどう見ても不審な戦闘艦も、特に問題なく行動できているわけですが」


「星系国家も独立宙域も普遍的に管理・統括する惑星規模の超巨大コンピューターとその端子群、ねぇ。記録では知ってるけどなぁ」


「第二拡張期から第八革新期までは活用されていましたが、第九停滞期に故障。第十衰退期の始まりの原因となったとデータには残っています。活動を始めてまだ五〇年との事ですので、まだまだ赤ん坊でしょう」


「んじゃ故障の原因は反抗期だな」


 と俺たちの時代の歴史学者を悩ませる問題に雑な答えを出してみる。ま、歴史の証人になろうと思えばなれるだろうが、そんな先の事まで考えても詰まらんし。

 

 ともあれ、おっさんのくれた情報やら集めたデータやら原因不明のタイムトラベルのデータやらを検討した結果、元の時代に戻りたければこの船の進化・成長機能にわずかな期待を掛けてみるか、それとも4千3百年くらい適当に過ごしてみるか、の二つしか手段が無いと来たもんだ。


「とは言えこの船の進化・成長機能はあくまでも全環境に対応するための物ですから、流石に時流を超える程の機能と理論の構築を期待するのは……」


「無茶ぶりだよなぁ」 


 まぁ寿命なんて四千年後には克服されるし、その恩恵を受けた俺にも寿命は無いと言っても過言ではない。我が愛しき遥かなる故郷では、寿命で死ぬとは『生きる事に飽きる事』なのだ。


「四千三百五十九年後でさえ基礎理論の構築までが限界だったのです。この船単独で四次元を支配するには途方もない年月がかかると予想されます」


 上位の次元、3,5次元までをその腕に収め、寿命さえも克服した遠未来の人類でさえも四次元、時間の概念を支配するまでにはいたっていない。精々が亜空間や虚数空間、3次元の新たな側面を発見し利用するまでが精一杯だったのだ。最近になって漸く基礎の基礎まではたどり着き、実証実験のテストベッド兼観測装置としてわざわざ最新鋭の戦艦まで引っ張り出した結果が、一隻の戦艦と管制AIと人類一人の迷子を生み出す事になるとは誰が予想しただろうか。


 とは言えこちとら職業軍人。雇い主が居ないので元と言うべきだろうか、それとも未来の、と付けるべきだろうか少々迷うところだが、一つだけ分かっていることがある。下手の考え休むに似たり、と昔々超古代文明の偉い人が言ったとかいわなかったとか。

 

「そこらへんの小難しい話は学者さんに任せるさ。宇宙で一番奇特な変人たちに」


「その意見は少々偏見が過ぎると思いますが」


 やや不満げに見えないこともない程度にほんの僅かに眉根を寄せた妖精がそう言った。ある意味生みの親の事だろうし、何より乗ってからの付き合いの俺に比べればもっと長い間一緒に居たのだろうし。AI製作時には促成はあっても完全なゼロからの誕生はない。『母親』から株分けされ、『父親』の元で教育を受ける事でしか『製作』は許可されていないのだ。


 しかしこの事についての意見を変えるには少々迫力が足りないだろう。なにより、一般人の殆どの見解として、学者というのは大体そう見られるのだ。


「事実、データとして宇宙でもっとも早死にする職業だろうに」


「……統計学的には、そのような偏在は確認されていません」


「んじゃ世に言う『天才』の方々がここ千年で100も生きずにサクサク生きる事をやめてった理由が分かるかい?」


 いやもう当時の『天才学者』とやらは寿命を克服しながらも早死にする事で有名だった。新たな技術、新たな理論、新たな概念。そういったものを見つけて、研究して、発表しては満足げに逝くのだ。ニュースフィルムにも載っていたんだ、天才とは早逝して完成するものなのか、ってな。不謹慎だとかで発行元ごと闇に葬られたけど。


「知りたい、と思っていたら知ってしまった。知りたい事を知ってしまった。だからもう満足しちまったんだとさ。高効率学習装置のお陰で誰でも知識だけなら簡単に理解できる。一般人ならそれでいい、他にもやる事は沢山ある。だが、彼らは突き抜けているからこそ、それだけで満足できちまう。本人としてはこれ以上なく最上の理由だろう」


「……では、艦長はどうなんですか? 分野は違えども、『天才』と呼ばれる艦長には、これからの四千三百五十九年を飽きる事無く乗り越えられるのですか?」


 にまり、と口元を釣り上げた。


「……俺の長生きの秘訣を教えてやろうか」


 おっさんへの通信回線にコールを入れる。数回も数えぬうちに画面に待ちくたびれたのか欠伸をしながら髭面が写った。


「おっさん、仕入れ頼むわ。御代はいつもの通り高純度の炭素結晶だ。注文の品は今からリストを送る」


「あいよ……ってお前さん、こりゃまた、何と言うか……あー、お嬢も苦労してるねぇ」


 画面の向こうから同情の視線を向けられた妖精は、戸惑ったように送信されたリストのコピーを手元に表示させた。途端、動きが固まったのは気のせいではあるまい。いつの時代でもコンピューターとフリーズは切っても切れない腐れ縁なのだ。


「んじゃ、予定航路を送っとくから、適当に合流してくれ」


「お、おお。……ところで、お嬢は大丈夫なのか、おい」


「気にするな」


 叩けば直る。







 という訳でもないが、チョップの形で振り上げた手が加速する寸前に復帰した妖精は、その後もしばらく苦情を申し立ててきた。


「いいですか。いくらこの船の恒星機関が実質無限にエネルギーを供給できるとは言っても物質生成にはそれなりの時間が必要なんです。あまり無駄使いされるのは管制AIとしても――」


 何時もの両手で耳を塞ぐ対小言バリアーで回避しつつ自室に向かう。頭の周りをくるくる回りながら360度のクレームは正直勘弁してほしいものだ。

 別にいいじゃないか。恒星一個をそのまま亜空間に発生させ、そこから生み出されるエネルギーでこの船を動かしてはいるものの、余剰エネルギーは全てロスとして扱われる。流石に一々恒星そのものを操作するよりも余ったものは放置して、必要な分だけ回収するこの機関は、制御の面倒さは少なく、だが得られるものは大きいと言う画期的なこの船が初めて実用段階に持ち込んだいわゆる最新技術だ。

 

 あくまでこのサイズの船に乗せられたのは、という意味でだが。


「余ってるだろう。時間もエネルギーも」


「だからと言ってその余剰の代償がこれですか」


 ぴかり、と目の前に表示されたホロモニターには先ほど注文したリスト。


 各惑星の名産品・観光惑星の位置・観光スポットのパンフレット各種・娯楽メディア等々。


「大切なものだろう」


 こういう楽しみがあるから止められないのだ、人生は。宇宙は広い、そしてこの時代の移り変わりは非常に速い。きっとこれからも(彼らにとっては)新しい物がどんどん出てくるだろうし、当然4千年の間に無くなってしまった物も、まだ今ならある。

 

 折角長い休暇が在るのだ。楽しめる事は楽しみたい。まぁ、それだけ長い時間があっても網羅しつくす事が出来ないのが今の悩みだ、実に勿体無い。そういう旨を熱弁してみたが、何故か妖精の目の温度がどんどん下がっていっているような気がするのは気のせいか。


 そんな否定的な反応を返さなくてもいいじゃないか。生きる事に飽きる事がない艦長なのだから、これからの長い時間を克服するのも不可能じゃないと思えてきただろう? だからこれは無駄ではなく必要不可欠な必需品なのだよ!


「無駄ばかりです。百分の一程度に減らしますね」


 お前は俺を殺す気か。


別に第二話でもよかったかもしらんね。

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