六
あの子を追うにも、機材があって此処を離れることは不可能だった。
ブースでの『タイム・リミット』も、もう来ていたし。
早々に片付けて、撤退しないと『次が入って来る』時間だ。
取り敢えず、荷物をまとめて、ブースの受付前に運び出していたら、目の前を、知らん顔して通り過ぎていった奴らがいた。
ひとりは『例のあの子』。
続いて……傍らには『長身の男』。
そいつって……楽器、演っているというより、スポーツ系かもな?
結構、体格のいい男だ。
『スティックケース』を肩にかけて、片手には『ジルジャンのシンバルケース』。
見るからに『ドラム演ってます』って感じ丸出しで。
一方は『洗いざらしの襟シャツにカーゴ』をわざと?着崩したようなそいつ。
で、もう一方は『パステル系のパーカーにボーダーTシャツ、切り返しのあるパンツ』をいかにも気を使って、こじゃれた……って感じのあの子。
……普通はさ、大体つるんでいる奴同士ってさ、お互い『浮かない』様に同レベルで合わせるもんなんだけれどな。
こいつらって……はっきり言って……『変』だ。
笑えるほどに『似合わねー』っつーか、何というか。
まあ、俺がどうこういえるレベルじゃないんだけれども。
あの子は俺に気づきもせずに、嬉しそうに隣に話しかけていた。
でも……なぜか相手さんは別に『それ』に対して……すごくそっけなくて。
こいつって……案外『こういうことに気の利かない』ヤツなんだ。
そういう『面構え』してるしさ。
面白くねえって、そんな顔だな。
でも、そいつらをよーく観察していたら……気づいちまったんだ。
体格の差があるから、歩幅も歩くスピードも全く違うはずなんだろうけれど、
『そいつ』ってさり気なく『あの子』に合わせていた。
それも真横にびたっと付いているんではなくって、若干後ろに引き気味で。
腕組むわけでもなく、かといって離れるでもなく……。
『絶妙な距離感』
多分『あからさまに見せる優しさ』というのではないんだろう。
それでも、あの子のあの嬉しそうな様子を見れば分かる。
それはそれで上手くやっているんだろうってな。
『見えない絆』っていうやつかな。
(我ながら……キザっぽいぜ)
なんだか、ふたりから妙に目が離せなくてさ。
これって、何だろう?
ま、俺には関係のないことだ。
俺って大体、女にベタベタされるのって好きじゃないし、触られるのも……嫌なほうだ。
(かといって、男にそうされるのは、もう『論外』だけれどもさ。……ゾッとするぜ)
これが、俺とこいつらとの『接触』《コンタクト》の始まりになろうとは……この時、微塵も思わなかったんだけれど。
俺の中で……『何かが変わろう』としていたんだ。
多分な。
第三者から見た、『ふたり』を書いてみました。
本編から少し後の話……ということで。




