弍
日曜日。
この日は、某メーカーのキーボード新作発表会ということで、ミニライブが開かれることになっていた。
客は、『サクラ』の他に、中高校生が多めと行ったところだろうか。
近頃は、『鍵盤』も凄いことになっている。
PC内臓で自動でバッキングやハーモニーが出来るし。
それも指一本で。コード進行もお手のものですっていうヤツ?
(バンドには必要ねえかもな)
要は、売れりゃあ、いいんだよな。
そういうもんだ。
俺のほうのセッティングは大したものも無く、さっさと済ませて客を眺めていた。
別に意識していたわけじゃないんだけれど、その中に、なんだかその場の空気が変わるような……不思議な『女の子』が、後部の立ち見の中にひょいと現れたんだ。
群衆とは、ちょっと離れた扉側に……まるで遠慮して隠れるように立って……。
観客の中に何人か『その子』に気づいて……友達同士で、何か話しているのが見える。
始めは……『ギョーカイ』の奴かなと思ったりした。
どう言えばいいんだろう。
やたら『目を引く』っていうんだろうか。
帽子の下には、やや小さめの……整った顔立ち。
見たところ『女の子』なのに、ちょっと『ボーイッシュ』な出で立ちで。
白の長袖カットソーにクロスアクセ。
光沢素材の黒のジレ。パンツと揃いで。
(細い足だな、こいつ。……しかも胸が無えし)
……でもって、ベルト付き黒のローブーツ。
見た目、『ハード・ロック』系ってんだろうか?
ギターケース背負ってるし。
……や、わからん。
俺『そういうこと』に疎いからな。
でも、不自然ではない。
浮いているわけでもない……そんな感じだ。
なぜか気になる『女の子』……。
今日のメインは『キーボード披露』なので、歌は抜きってことで。
GⅠ・GⅡ・Key・B・Drの編成で行く予定だ。
俺以外は、きちんとバンドでも活躍しているメンバーだ。
……まあ、自分の役目は『ミスらない』っていう基本中の基本をやることかな。
司会のおねーさんの慣れた『アプローチ』で、ライブは始まった。
メインのキーボードの『パフォーマンス』とリードギターの『速弾き』の掛け合い的音楽。
単調なリズム展開に、モコモコとしたランニングベース。
まあ……『オーソドックス』ってやつかな。
『サクラ』がやけに張り切って、テンションが高いな。今日は。
俺はといえば、地味にこっそりとリズム・カッティングを繰り出していた。
まあ、聴衆の奴らには、あってもなくてもいいような『ポジジョン』だ。
そう思っていた。
案の定、他の奴らは主役二人に声援を送っていた。
……ひとりを除いては。
みんなの視線が、キーボードやリードに集まる中……『あの子』はこっちを見ていたんだ。
……。
自意識過剰だって?
でも、音楽やっているのって、そういうヤツが多いぜ。
そう思わねえ?