第6話 黒い会長と初恋の日の面影
遅れてしまって申し訳ないorz
後半はマジシリアスです。
中篇予定なので、展開早いんですけど、我慢してくださいm(_ _)m
「ちょっと!」
すぐ後ろで紅科が怒鳴っている。
「もうちょっと丁寧な運転出来ない訳!? あたしがか弱いの知ってんでしょ!?」
「うるせー!! 元はと言えばお前が自分家の電話番号知らねーのがわりぃんだろ!! っていうかお前、自分がか弱いとか思ってんの!? それは俗に言う、“勘違い”ってヤツだ!」
「うっ! うるさいわね!! 電話なんて普段しないんだから当たり前でしょ!」
「いや当たり前じゃねーよ!! お前、相当イタいわ!」
今、俺たちは駅前に行くための近道を通過している。
だがこれが、とんでもなく道が悪く場所であった。
もの凄く急な坂道を飛ばして走っているため、会話は大声でなければ通じない。
……とはいえ、俺、ここ通ったことないんだよね。
テヘ。
……あ、気持ち悪い? 分かった、やめるね(涙目)
まあ、紅科が尋常じゃない方向音痴を遺憾なく発揮してくれたので、結局道に迷ってしまい、誰も通りたがらないこの歪な形をした近道に来た…というわけだ。
幾度お前のせいだと言っても、彼女のデカ過ぎるプライドはそれを認めたくないらしい。ホント、何から何まで困った女である。
自転車に乗るとか言ったときのこいつは超可愛かったのに。
+++++
「なーにやってんだよ! 早く乗れって!」
俺は、自分の自転車に跨がり、紅科に向かってぼやいている。
最近はパシリとして扱われることが少なくなったため、金魚のフン的な頻度で“パシリ”の後ろに引っ付いてきた“嫌がらせ行為”も極端に減り、俺の自転車の鍵は放課後になってもまだ生きていた。
その自転車の鍵を指に引っかけ、華麗にクルクルと回す。…俺ってちょっとカックイー!
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……」
なぜかモジモジして、目線を逸らす。
さっきからずっとこの調子で、自転車に乗ることを渋っている。
……自分が言い出したくせに。
「もういーから早く乗れって!」
とうとう痺れを切らし、紅科の手を取り半ば強引に俺の後ろに導いた。
そして、ストンという具合に荷台のところに収まった紅科は、今まで渋っていたのはウソかと言うくらいに、
「いった! ここって超痛い!!」
今度はギャーギャー喚き始めた。
そして、体を大げさに揺さぶり、自転車をガタガタ言わす。
「うるさい! ちゃんと掴まれ!」
ジタバタする紅科の手を掴み、俺の腰へ回した。
すると、
「ぬおっ!」
奇声が発せられた。
「何なんだよ! それと、もっと女らしい声出せよ!」
「だってだって………」
また急にモジモジし出す。
柄に合わない…。
見ているこっちの身にも若干危害が及ぶわ、コレ。
そう察知した俺は早急に次を促した。
「早くしろって」
一瞬の間。
「は…、恥ずかしい……」
そう言うと、俯き、黙りこくってしまった。
ちょい、今の反則でしょ。
俺の頬、尋常じゃなく熱いんですけど。
“頬が熱く熱を帯びている”……とかそういう生温い表現じゃねーってば!
とにかく、何か喋らねば!
赤い顔を隠すようにして、口元を手で押さえて語ると、少し声がくぐもっていた。
「……、お前に合わせるから。だから、早く乗って」
「う、うん……」
いや付き合いたてのカップルか!!!!!
なんでこんな
“甘酸っぱい青春を謳歌♪”
みてーなことしてんだ俺! 相手は紅科だぞ!? よりにもよってこのゴリラ!
紅科は、そろそろと歩き出し、ゆっくりと荷台に乗った。
そして、遠慮がちに腕を腰に回してくる。
ちゃんと乗っていることを確認してから徐にペダルを漕ぎ出す。
俺の音か、紅科の音か分からない。
この鼓動は…。
きっと、2人とも緊張してる。
紅科は、思ったよりも軽くて、
俺の腰に遠慮がちに絡められた腕は、吃驚するくらいに細かった。
近くにいることを、痛いほど認識させられる。
いつもは、近くにいるのに遠く感じる彼女だけど、少しだけ…、近づいた気がした。
柔らかい彼女の髪の毛がなびくたびに、何に対してだか分からないが、僅かな優越感が生まれたのは俺の秘密。
自転車に2人乗りして、強く生まれた感情があった。
あれは約4年前の、春。
優しくて、今にも壊れてしまいそうな笑顔が印象的だった。
……こんなに彼女に近いと思った人間はいない。
この、儚げに細くて華奢なひとを、ずっと探していた。
彼女が突然いなくなった日から、ずっと追い求めていた。
………中学の頃、見失わないように必死で抱きしめていた、俺の幼く淡い初恋。
毎日羽織っていたカーディガンの綻びを。
振り返るたびに甘く誘うあの薫りを。
その瞳にいつでも宿っていた翳りを。
彼女の面影の全てを…。
俺は忘れることが出来なかった、ただの一日も。
そして、紅科を自転車に乗せたこの日から。
俺は彼女を意識せざるを得なくなる。
+++++
すっかり、日も落ちていた時間に出てきたから、間に合うかどうかは微妙だった。
…でも、俺の脚力なら大丈夫だって思ってたんだ。
いや、絶対に大丈夫だった。
「だけどお前の方向音痴のせいで俺の計画がパーだよ!!」
「あたしは方向音痴じゃない! バカじゃないの!?」
8時閉店のこの店は、つい10分前に閉じられていた。
もうダメだ……、俺、ダメだもう……。
心の中で弱音を吐いていたつもりだったのだが、どうやら外にまで漏れていたらしい。
「そう? 全くヘタレね! 帰りは私が送るわ、後ろの荷台に乗って!」
そういやこいつ、スポーツも出来んじゃん。
全部任せときゃ良かった。
女に頼るなんて情けねーけど、疲れたからしょーがない、うん。
「マジ? んじゃ任せたわー、ヨロシク」
「ハーイ」
何故だか上機嫌になった様子の紅科。
俺は荷台に乗って、紅科の背中に縋りつくようにへばった。
「は、悠暉!? ちょっと、何してるのよ!」
紅科の声が聞こえたけど、そんなのお構いなし。
俺は深い眠りへと誘われた。
それから幾らくらいたったのだろうか。
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる。
「悠暉ー! 起きてよ! あたし、道分からなくて…。助けてよー」
なにやら途方に暮れている様子。
誰、だろう………。
細いシルエット…。
まさか……、
「い、の……り………?」
無意識の内に紡がれた言葉。
4年前の清らかな思い出……。
阿澄 祈
これが、彼女の名前。
……俺の初恋の人。
相手の姿を確認する前に俺は再び闇の中へ葬られた。
一瞬開けた意識の中で、紅科が視界の隅に映った。
だけど、その端正な顔に浮かんだ表情に、俺は気づかなかったんだ。
ただ、祈の姿が少しでも垣間見えたことが、死ぬほど嬉しかったから……。
まだ、俺の中の彼女の影は、拭えない。
ホントに急ですみませんm(_ _)m
3月までに終わらせたいなと思っているので、ペースあげていきます!